ある冬の日。私は窓から、雪を見つめながら、自分の吐く息が白い事に気づく。 今日は、浩太郎の誕生日。一応ケーキを買ってきたが、どうせ真帆の所に泊まるのだろうと思い。何もない冷蔵庫に入れる。 急に大きな音が部屋に響き渡る。 私は異常を感じ取り、音がなった玄関の方へ、警戒心を持ちながら、ゆっくりと近づく。 玄関の明かりをつけると、浩太郎が倒れているのが目に入った。 「浩太郎!」 倒れている彼を起こそうと、懐に入ると、甘い匂いがする。 「まさか…お酒飲んできたの?」 「未来〜。今日は飲もう!」 そう言うと、彼が私に抱きついてきた。 一瞬、彼の瞳に、妙になまめかしい女の私が写っていた。 私は顔を赤らめながら、彼を運ぶ。 なにかぶつぶつ言ってるのが聞こえたが、酔った相手の言うことは聞かないようにしている。 ソファに彼を下ろすと、ぐったりとした様子で、ゆっくりを目を閉じる浩太郎。夫ができるとこんな風になるのだろうか。想像しながら、私は水を彼に手渡す。 「もうさ。真帆のやつさ…」 笑いながら浩太郎が話し始める。 「真帆がどうしたの?」 すると、声が震えてるのがわかった私は、それ以上言うのをやめた。 “真帆が二股していたんだ” 浩太郎がデタラメをついているのか、本当の事を言ってるのかわからない。酔っているからこんな事を言うのかもしれない。 だが、真帆の事。考えてみればそうだ。彼女の行動が怪しくないとは言い切れない。 大学二年になると、急に浩太郎と遊ぶのも少なくなったし、大学にも滅多に来ることはなかった。でも、友達だから、信じたい。 浩太郎の笑っている顔が、だんだんと苦しそうな顔になってきた。 「ごめん…」 浩太郎はそう言うと、お手洗いの方へ向かう。背中に絶望と言う文字が書かれてそうなくらい、彼は暗かった。 涙を見せたくないのが彼の性格。向こうで鼻をすする音が聞こえる。間抜けなんだが、それが浩太郎らしい。 よっぽど真帆の事が大事だったのだろう…。普段お酒を飲まない彼が、あんなに飲むとは…。 こんな時、私はどうしたら、彼を励ます事ができるんだろう。私は口が上手くないので、気の利いた言葉一つも言えない…。 「未来」 名前を呼ばれて後ろを振り返ると、浩太郎が冷蔵庫にあったケーキを右手に持っていた。 話題を変えるために、無理矢理雰囲気を変えようとしているのが、ミエミエである。 強がってるの分かってるから、一番浩太郎の事知ってるの私なんだから。 「ケーキ買ってくれてたんだ。ありがとうね」 「この間の誕生日の時、買ってくれたお返し」 しかし二人とも、誕生日の日に二人して別れるなんて…。偶然にも程がある。 「浩太郎。我慢しなくてもいいんだよ。辛いんでしょ?」 苦笑いする浩太郎の右手を、私はしっかり掴む。 「抱いてもいいよ」 これしか考え付かなかった。彼が元気になる方法。 男の子が何で喜ぶのかわからない。一つ思った事がこれだった。 そもそも、私は彼を男だと意識したことがなかった。 「私は友達だから、浩太郎に元気になって欲しくて言ってるの。変な感情は抱いてないから」 「ありがとう」 彼の顔がだんだんと私に近づいてきた。瞳に映る彼が、男らしく見える。 初めてかもしれない。男だと彼を意識したのは…。 柔らかい唇が触れる。浩太郎のキスって優しい。背中に手を回す。浩太郎の体は暖かくて気持ちいい。 こんなにドキドキしたのは、初めてかもしれない。 窓を見ると、白い雪が、空からゆらゆらと降ってきた。
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