薄暗い雲がだんだんと空を覆い隠していった。この所、私の気持ちもこんな曇り空だ。学校のグラウンドで体育の授業をしている人達が、本校の向かい側にある小さな部屋へと戻っていくのを、私は、窓から見ていた。授業中だというのにも関わらず、私の目の前にいる男子は堂々とお菓子を食べている。雑誌を読んでいる奴もいれば、おしゃべりをしている奴もいる。先生は、それを見て見ぬ振りをして、誰も聞いていない教室にしゃべりかける。私はそれを冷ややかな目で見る。
夏休みが過ぎると、同じグループだった子達の様子がおかしいのに気づいた。私が話そうとすると、みんなはどこかへ行ってしまう。さすがにこの時期に入ると、いじめが起こるものだと薄々感づいていた。心あたりはある。グループのリーダーの子は、クラスで目立つ存在の子で、性格も明るく、勝気。みんなから好かれる性格で、ファッションにも流行にも敏感。一方私は、その子とは、まったく反対で、性格は暗くて、人と話すのが苦手なタイプ。流行やファッションには興味が持てず、ダサイと言われていた。リーダーの彼女としては、私がグループにいるのが迷惑だったのだ。それがクラス全体に拡大していくことも大体は予想ついていた。
私だけ靴下…、少し抵抗を覚える。俯きながら、机を見つめる。上履きは、今朝下駄箱を見たら無くなっていた。誰かが隠しただろう事は、見当がつく、臆病な私は、口に出すこともできずに、ただ我慢をしていた。こんないじめにあっていても、私は学校に来ていた。学校へ行かないと負けるような気がした。
さっきまで降っていた雨が止み、夕日が沈む頃。帰りのチャイムが鳴り、誰もいないのを見計らって、上履きを探すことにした。先生に言っても、どうせ対応してくれないだろう。 一人で下駄箱を探していると、なんとも気弱そうな男子が、何してるの? と、尋ねてきた。ひょろっと背が高く、細い体、分厚いレンズが目立つ眼鏡をかけている、手には、大きな辞書を持っていた。 「上履き探してるのよ。あなたは確か…」 人を覚えるのが苦手な私は、この男子が誰なのかわからなかった。同じクラスってことは知っていたけどね。 「村井浩太郎(むらいこうたろう)だよ」 「あぁ」 思い出した。彼も私と同じで、いじめにあっている男子だ。彼は、女子から“メガネ変人”と罵られ、男子からは、酷い暴行を受けていた。私と比べると、私はまだ幸せな方だ。同じいじめに合っている同士、何かに引き寄せられたのか。雰囲気がどことなく、私に似ている。親近感を感じた。 しかし彼が声をかけてくるなんて珍しい。 「キミは、水野未来(みずのみく)さんだよね?」 そうよ。と、答える。 「僕も探すの手伝うよ」 村井君はそう言うと、順番に下駄箱を見ていった。 数分経ち、村井君が見つけてくれた。掃除道具の後ろに隠れていた。 「埃まみれになってる」 村井君が、軽く上履きを叩き、それを私の足元へ置く。 「探してくれてありがとう」 そう言うと、彼は照れくさそうに笑った。
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