変なコインを仲間にしたことだし、あたしたちは、もう一度道を引き返し、今度は左の道へ行くことにした。 シャドルはまた紙に何かをメモっている。 左の道は、右の道と違い、歩きやすかった。次は何が出るかと、張り詰めた雰囲気で歩いてると、間の抜けた音が・・・。 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅううう。 モイストが真っ赤な顔で頭をかく。 「そろそろご飯にしようか」 洞窟の中にいるから時間の感覚は、まったくないけど、ちょうど今昼くらいかな? というか、ここに入ってどのくらい経ってるんだろ。 「じゃあ。この辺で飯にするか」 シャドルはそういうと、荷物をそこに降ろし、荷物の中から、ペンを取り出す。あたしたちは不思議そうにその光景を見ていた。あたしたちを囲むように、円を 地面に描いている。それから、文字を所々に記入をしている。 「何してるの?」 あたしが聞くと、シャドルは地面に何かを唱えたと同時に、そこから淡い丸い光が出てきた。 「簡単な魔法陣を張ったんだ。休憩している間に襲われちゃおしまいだろ」 「魔法陣って何?」 あたしが首をかしげると、モイストも一緒に首をかしげる。 すると、アヨユがあたしのポケットから飛び出して来た。(アヨユは小さいから、あたしのポケットに入れてるの) 「…おちびちゃん達、何も知らないんだなー。説明めんどいけど教えてやんぜ。魔法陣ってのは、一時的にモンスターを近寄らせなくするための魔法だ。まぁ。こんなか入っとけば、安全ってことだよ」 「って事だ。おれができる魔法は、今このくれーのことだけだ」 シャドルがあたしとモイストの顔を交互に見る。二人そろって頷くと、彼は、円の中に入る。あたし達も円の中に入ると、リュックの中から、お弁当箱を出した。 スイト町特製のお弁当だ。町を出る前に買っておいたのだ。シャドルのお金だけどね。少し残ってたから、お弁当くらいは買えたのだ。後は、シャドルが持ってきた食料ぐらい。お弁当の中身は、可愛く作られたおにぎりと、玉子焼きや、ゴララという食用モンスターのお肉が入っていた。そのお肉をモイストが、アヨユにあげようとした。 「おい。コインが飯食えるわけねーだろ」 まぁ。シャドルの言うとおり、アヨユは食べなかった。 すると、シャドルが急な質問をしてきた。 「そーいえば、お前どこから来たんだ? スイト町を珍しそうに見てたし…」 「ぶっ!」 あたしは飲んでいたお茶を吐き出す。 「きたねーな」 「えっと。あたしは…スイト町の西から来たのよ!」 「てことは、港方面から来たのか?」 「そ、そうよ」 あたしが自信満々に答えると、シャドルは疑わしい目で見る。 な、何よ。その目は、 その時、アヨユが…。 「おばかだなー。おちびちゃん。スイト町の西は、砂漠地帯だっつーに」 「うわ。酷い。シャドル嘘ついたのね!」 シャドルはケラケラと笑い出した。 「はは、おめーホントおもしれーな。まぁ。お前がどこからきたなんていいか」 なんかこうやってシャドル達と接するのって楽しいな。
ご飯を全部食べ終えると、また洞窟の奥へと進んでいく。さっきと同じ道のりで、飽きてきちゃった。 あたしは大きなあくびをしながら、淡々とその道を進んでいく。 「なんか飽きる道のりだね」 まぁ。洞窟だし、同じ景色ばっかだし、景色なんて最初から見えないけどね。 モイストがまた急に止まった。それに続いて、シャドルも足を止める。 またモンスターかな? あたしは、シャドルの後ろに隠れた。 後ろから、人の足音が聞こえてくる。人だってことはわかったけど、どんな人なのかわからない。あたしたちは、息を潜めながら、後ろのほうを凝視する。眩しい光が見えてきて、あたしたちを照らした。だんだん見えてきたのは、一組の男女だった。男性はカンテラを持っている。 「ああ。光を照らしてすまない」 男性は、カンテラを下ろすと、ニッコリと微笑んだ。 「うひょお。美人のねーちゃん。おちびちゃんとは違うなー」 あたしのポケットから急に声を上げたアヨユ。二人は顔を見合わせ、あたしを不思議そうに見る。あたしはポケットを軽く叩き、苦笑いをした。 こいつは…なんで一言多いのかしら。
男性の方は、青いマントを覆い、立派な鎧を着ている。背中には、彼の背と同じくらいの大きな剣が鞘に収まっている。体型は、無駄な肉がない筋肉質な体。ストレートな茶髪で、大きく青い瞳を持ち、笑うと、白い歯がきらりと光りそうな人だ。 女性の方は、長い青い髪を後ろで軽くまとめてあり、形のいい唇が、きゅっと締まっていて、上品そうな瞳。見つめられると、女のあたしでもついドキッとしちゃう。体は細く、豊満な胸にきゅっと引き締まったウェスト、まさに理想の体型。あたしもこうなりたいと以前から願っている。叶わぬ夢だけどね。トホホ…。とても冒険者とは思えない、綺麗なワンピースを着て、高く赤いヒールの靴をはいている。職業は聖職者らしい。聖職者とは、神聖な呪文を使用し、回復・防御系の魔法を得意とする職業。一度本で読んだことあるや。 あたしの想像なんだけど、この二人をぱっと見た時、恋人同士だと思った。きっと女性が旅に出たいと言い出して、男性の方がしょうがなくついてきたって感じ? 当たってるのかな? 「あんたたちも、この先の港町へ行く気か?」 シャドルがあたしの前に出て、二人に聞く。 「ああ。そのつもりだけど?」 「あら。あなた達も港へ?」 女性が優雅に笑うと、モイストは素直に頷く。 「じゃあ。俺たちと一緒にいかないか?」 シャドルがこんなこと言うのは意外だった。こんな台詞が出るとは思ってもみなかった。 アヨユを仲間に入れる時とは、まったく違う態度なんだから…。 「ねね。なんであの人達と行動を共にするの?」 あたしが小声でシャドルに聞く。 「バカだな。あいつら結構戦闘能力あるだろ?それに結構な装備してるから、金も持ってるってことさ。だから、食料とか分けてもらえるだろ? 利用してやればいいんだよ」 呆れた。やっぱり、ハンドもハンドだけど、このシャドルって人も、ろくな人間じゃないな。人のこと言えないけどね。 そんなことも知らずに、二人は快くそれを受け入れてくれた。洞窟を歩いている最中、自己紹介をし始めた。 「私は、コルク。コルクって呼んでくれ。キミたちは?」 男性があたしたちを見る。 「あたしはパヨピヨっす」 「おれはシャドル」 「オレ、モイスト」 三人がそれぞれ紹介すると、あたしのポケットから、コインが勝手に出てきた。 「俺様は、アヨユ」 二人は目を丸くして、アヨユを見た。 「不思議な生き物ですわね。あ。わたくしシャパと申します」 自分をシャパといった女性は、辞書みたいなのを片手に、アヨユを見ている。モンスター専門図鑑と表紙に書いてあった。 アヨユってば、モンスターと間違えられてやんの。あたしが笑ってると、シャパという女性が首をかしげた。急に、シャパさんはロングスカートをたくし上げると、太ももあたりから、銃を取り出した。それを、あたしに向ける。 やば。あたし何か気にくわないこといったっけ? あたしは自分が言った言葉を一語一句確かめた。だが、彼女は、ニッコリ笑って、銃の引き金を引くと同時に、動物の声が聞こえた。 「ぎゃん」 後ろからした声に全身が震える。さっきの犬の顔をした怪物が、奥へ逃げていった。 「気をつけて。安心するときが一番危ない時よ。お嬢さん」 優しい笑顔で微笑む。 「見事な銃さばき! キミの笑顔に撃たれたさ」 アヨユがポケットから出てきて歓声を上げる。モイストは首を傾げて、シャドルは冷め切った顔をした。 「怪我はない?」 すかさずコルクがあたしに言う。 「あ。はい。大丈夫ですよ」 話しながら、洞窟の奥を進みだすあたし達。 「それにしても美人っすね。シャパさんは」 アヨユがさっきから、あたしのポケットから、シャパさんに向かって話しかけている。 「ふふ。それはどうも。コルクもなかなかの男前でしょ?」 シャパさんはそう言うと、コルクの方を見る。 「何言ってるんだよ」 コルクは、はにかみ頭をぽりぽりとかく。 「コルクもなかなか男前ですねー。俺様の方が美形だけどな。」 ボソっと言った言葉は聞かなかった事にしよう。 「照れちゃって」 あー。なんか素敵だ。あたしとシャドルが笑っているのと、コルクとシャパさんが笑ってるのを比べると、コルク達は、まるで王子様とお姫様。あたし達は、低俗でバカな庶民のカップルだ。その前にシャパさんとあたし達を比べるのがいけなかったかな。あたし王女なんだけど、シャパさんみたいに上品じゃないしね。 あたしがぼーっとその様子を見ていると、シャドルがこういう。 「何ボヤボヤしてんだ。先進むぞ」 シャドルの発言を無視して、あたしは自分の興味のある質問を、コルクとシャパさんに聞く。 あたしが興味ある質問と言えば、さっきから気になっている、あれの事だ。 「シャパさん〜」 あたしが照れくさそうに、シャパさんの隣へ行くと、不思議そうな顔であたしを見る。 「どうしたのかしら?」 「えっと。コルクとは…その、あの」 あたしの言葉の続きを知っていたかのように、シャパさんはこう言う。 「コルクとの関係のことかしら? よく聞かれるからわかりますわ」 ドキドキして体を前のめりになる。 なんだーこんな事かーって思うけど、あたしにとっては、重要な事! 乙女に恋愛は欠かせないもの! 「恋人って言ってほしい?」 クスクスと笑うシャパさん。 「えー。シャパさん〜。恋人なんですか?」 アヨユがポケットから飛び出してくる。 「うっとうしいぞ。出るな」 シャドルがあたしに向かって言う。 「なんであたしなの? 出てくるのはアヨユの方よ」 「お前がこのコインを預かったんだろ」 すると、コルクが困ったように頭をかく。 「姉さん。変なこと言わないでくれよ」 姉さん? まさか兄弟? なんだ兄弟か〜。恋人だったら、色んな事聞こうかなって思ってたのに! 「そろそろ休もうか」 コルクがその場に座る。 「おいおい。まだ少ししか動いてねーじゃん。もう休憩かよ」 シャドルがぶーぶーと文句をたれる。 「女性の体力を考えてみてくれ。きっと疲れているはずだ。それから睡眠も少し取ってからの方がいい。私が見張りをしているから安心だ」 コルクってば、あたしやシャパさんの心配してるのね。それに比べてシャドルの奴ってば…。 「モンスターが寄ってこないように、これを」 シャパさんがそう言って取り出した物は、花柄の小さな瓶。中に青い液体が入っている。 「これはモンスターが嫌いな匂いが詰まってますの。これを体にかけるだけで一定時間モンスターが寄って来ませんわ」 それをかけようと、瓶のふたを取った時、モイストが鼻を抑えた。 「鼻が…」 そっか、モイストはモンスター生活が長いため、匂いにも敏感になってるのかもしれない。 「シャパさん、これかけないでおこうよ。シャドルが魔法陣を張ってくれるから大丈夫だよ」 あたしはその瓶にふたを閉める。 今日の夕食は、シャパさんが作ってくれた。燃やすための木の枝は、コルク達が持っていて、火はシャドルの魔法でお願いした。 シャパさんが作ってくれた料理は、彼女が丁寧に説明してくれた。キャビッツ草(カバジェの森でよく採れる薬草。美容によい)と、ジェラドの肉を混ぜたトマトスープと、小麦パン。 夕飯を食べ終わると、そのまま眠りにつく。
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