元気のよい鳥の合唱が、あたしたちに“起きて。起きてよ”と言ってる。応答して、あたしは目を覚ますと、カーテンを開けた。日の光が一気に差し込んできて、あたしの顔を照らしだした。反射的に額に右手をかざす。 「うう〜…」 モイストの顔に、光があたり、彼は反対側へと寝返りを打った。 そーいえば、ソファーで寝ていたハンドはもう起きたのかな? 入り口の近い位置にある、ソファーに近づいてみる。そこはもぬけのからになっていた。 どこかへ出かけたのかな? 「こんな朝からどこいってるんだろ」 あの人って放浪癖のあるのかな? まぁ。どこかにいっている事は予想がついたのでOKとしよう。 リュックに入っている着替えを出した。ちなみにシャドルは違う部屋で寝ている。 着替えを済まし、朝食を食べに一階へ足を向けると、下からシャドルの声が響いてきた。 「なんだって!?」 「何かあったんですか?」 あたしがひょこっと階段から顔を出すと、シャドルがすごい形相でこう言う。 「あいつ。あの黒い服の男!」 「ハンドのこと?」 「ああ。そいつだ。あいつどこいった?」 かなり必死の様子だ。さっきからあたしの両肩を揺らしながら聞いてくる。 「あたしが起きた時には、いなかったよ? どっか散歩でも行ってるんじゃない? 何かあったの??」 「何のんきなこといってんだ! あいつに金とられちまったんだ! オレのとお前の分な」 え? お金を取られた? 「おや。いけなかったかい? あんたたちあの子と仲間じゃないのかい? 預かり物をくれっていったから、渡しちまったよ」 にっこりとおばあちゃんが言った。呆然と立ち尽くしたまま、ある言葉が脳裏をよぎる。“俺は金がないんだ”これは、ハンドが散々あたしに言ってきた呪文のようなものだ。
というわけで、王家の墓を探す目的をひとまず…。ハンドから王家の鍵を返してもらうことが目的となった。シャドルもお金を返してもらわなきゃ困るので、一緒についてくる。それに、あの袋の中には、あたしが汗水流して働いたお金がああ…。そう遠くには行ってないだろう。早めに追いついて、さっさと鍵を返してもらわなきゃ。あれがなきゃ、家に帰ることすらできないよ! ハンドは、この大陸には用がないと言っていた。これはシャドルの言っていたことだが、きっと、この大陸から離れるつもりなんだろう。そのためには、スイト町から南へ行った港へいかなければならない。その港町に行くまでに、洞窟を通っていかなければならない。安全な道もないわけではないが、通行料を取られるのである。シャドルは、洞窟から行こうぜといって張り切ってるし…。今お金ないしね。大抵の冒険者は、洞窟から行く。あまり強いモンスターなどが出ないかららしい。大体あたし、この大陸の地形もさっぱりだし、道を歩くのに、お金払うってのも知らなかったし。お城で勉強したんだと思うけど、たぶん。寝てたしね。 地下洞窟の入り口は、大きなゴツゴツした岩に囲まれていた。その岩の周りには森が広がっていて、森の奥には山が見えた。そして、あたし達は、地下洞窟の階段をゆっくりと降りていった。奥を見ると、狭くて暗い洞窟がつながっている。どれだけ狭いかというと、人が一人くらいしか入れない程度。 「レディーファーストだ。先入れよ」 シャドルがにやっと笑って言う。 「あ。うん。ありがと…って何がレディーファーストよ! よくよく考えれば危ないじゃない!」 なんかいっつもシャドルのペースに巻き込まれちゃう。 結局、先頭はシャドルにして、真ん中はあたし、その次はモイストというふうに、順に歩いていくことにした。 「あー。カンテラ。カンテラ」 洞窟に入る前に、カンテラをリュックの中からあさっていると、シャドルの手から眩しい光が見えた。その光を見たモイストは、慌てて、あたしの後ろに隠れた。 「シャドル。それ何?」 「見りゃわかるだろ。魔法だ」 「すごい。魔法で炎を出せるのねー。というか明りか」 カンテラをリュックに戻し、シャドルの方を見る。 あたし達は、洞窟の中へと足を踏み入れる。少しひんやりとした冷たい空気が、あたし達を包み込んだ。天井に写っているあたし達の影が、ゆらゆらと揺れている。 やっぱ魔法って便利だよな。魔法使いってカッコイイな。あたしも魔法使いになりたいな〜。 洞窟の奥へ進みだすと、道がだんだんと広がってきた。狭いのは最初だけだったらしい。上の天井の部分もだいぶ高くなってきた。最初は、シャドル達が屈んで歩いてたのに。 「まて。道が別れてる」 シャドルはポケットの中から、方位磁石と紙とペンを取り出した。さらに、チョークのような物まで取り出す。 「めんどくせーな」 そうぶつぶつ言うと、紙に何かミミズのようなクネクネした絵を書き出した。 「ミミズ!」 モイストが指さして、得意気に言う。 「ちげぇ。この洞窟のマップ描いてんだ」 なるほど、これがマッピングというものか、道を迷わないように、自分たちが歩いてきた道を紙に描く。お城で勉強したことだ。 「じゃあ。このチョークは何?」 あたしがチョークを持つと、シャドルはそれを奪いとった。 「これは、目印だ」 別れてる道の右のほうの地面に、チョークで丸印を描く。 って、あんなことして消えないのかな。 「これは、絶対に消えないやつで、こうこすったり、水でぬれたりしても、消えない便利な道具だぜ」 シャドルは、チョークで描いたとこを服で擦ってみせる。 「おぉ! すごーい」 あたしとモイストが拍手すると、シャドルは、はいはいと軽く流す。 とりあえず、あたしたちは、矢印を描いた方へ歩を進めた。こっちの道は、少しぬかるんでいて、足を取られやすい。 「モイスト。転びやすいから気をつけてね」 後ろのモイストに言った。 「お前が気をつけろよ」 シャドルが後ろを見ながら、あたしに忠告する。 「あたしが転ぶわけないじゃ…ぎゃあ」 見事に転んでしまった。その様子を見て、呆れるシャドル。 「まて」 少し進んだところで、行き止まりになった。シャドルは、魔法の光をそこに当てる。 「…臭い」 モイストは耳を立て、鼻でかぐ。 「ど、どうしたの? 二人とも」 あたしは、モイストの肩を持ちながら、二人に聞いた。二人は、真剣な目で周りを見ているだけ。 もしや、何か前にいるのかな。でも、前は行き止まりだし…。 「あれ?」 かべにゆらめいた人影。なにか獣の様な耳を持っているのが、一瞬見えた。すぐさま後ろを向くと、体長一メートル半くらいで、犬の顔をしており、口が裂けてて、目が赤く光っている怪物が、二本足で立っていて、棒を、あたしに向かって振り下ろした。すると、怪物の目に何かが飛んでいった。手に持っていた棒は、どすんとそのまま地面に落ちる。慌てて目を押さえて、痛そうにする怪物は、奥へ逃げていった。自分の足元に、何かきらりと光る物が見えた。それは、あの小さなコイン。 「もしかして、これが勝手にでて…」 あたしがぶつぶつ言いながら、コインを拾うと、後ろにいたシャドルが頭を小突く。 「何ぶつぶつ言ってんだよ」 「このコインがね。今、あの怪物にあたったの!」 「何わけわかんないこといってんだ。コインが動くわけ…」 あたしが持っているコインを、シャドルが奪い取ると、顔色を変える。 「ただのコインじゃねーな…」 急にコインから、妙な声が聞こえてきた。 「あぁ。そうさ。俺様は世界で一つのコインさ」 三人とも、固まったまま、五分間は動けなかった。 「あなたは何者なの?」 「そういうおめぇらは何者なんだ?」 む。なんて生意気なコインなの。 「あたしはパヨピヨ。怪しい奴じゃないわ。どう見てもキュートでプリティーな女の子でしょ」 「…」 ちょっとその沈黙何よ! 「しょうがねーな。俺の紹介からしてやるよ」 コインは、岩の上に登り、語り始めた。 彼は、思いのまま、一気に話し出した。彼の名前はアヨユ。何も夢がなかった彼、何か打ち込める物がほしかった時期が何度かあった。そのたびに、いろんなことをやってみたが、全て続くことができなかった。ある日、フラっと寄ったカジノで、大当たりを出してから、彼の人生はかわってしまった。今まで地味だった生活は、一気に華やかになる。それからというもの、どのゲームをやっても当たりを出してしまう。やっと打ち込める物を見つけた。それがギャンブルだ。彼は、負けたことがない。何度もギャンブルの王の座を物にしてきた彼は、何かと妬まれ、何度か命の危険にさらされたことがあったが、持ち前の反射神経と感の良さで、切り抜けてきた。その運もそこまでのようだったのだ。アヨユは一番危険なゲームに手を出してしまうことになる。怪しげな男が、アヨユにすごろくのゲームを申し込んできた。それはただのすごろくではなく、命さえも奪ってしまう魔法のすごろくであった。ます目には、死ぬとか、隣の人を殺して、2マス進む。このような残酷な指令ばっかで、それが本当に起こってしまう。その辺にいた男たちも遊び半分で参加したようだが、どうやら、半数程度の人間が、そこで死んでしまったようだ。アヨユは運良く生き延びたものの、呪いというます目で、コインの姿に変えられてしまったという。皮肉にも、好きなギャンブルのせいで、こんな姿に変えられてしまった。それからというものは、彼は、人の手から人の手へと、どんどんと渡って行き、ついには、あたしの元へとたどり着いたのだ。ちなみに自称美青年らしい。 「頼む! 俺様を元の姿に戻してくれねーか? おちびちゃん」 ムカッ。何よ。あたしより小さいくせに、チビですって…。 なんか変な感じ、コインに頼まれてる。モイストは物珍しそうに、アヨユを色んな方向から見てる。 「ねね。シャドルの魔法で治せないの?」 「おれは呪い専門じゃねーから無理だ。それに、おれは魔法使いって言っても、簡単な魔法しかできねーよ、だいたい、なんで今まで会った奴に、元に戻してもらわなかったんだよ」 シャドルが冷たく言い放つ。 「誰も信じてくれなかった…」 アヨユは少し遠くを見た感じで、空を見上げた。 そりゃあ信じろって言うほうが無理あるわ。誰もこんなコインの言うこと信じてくれないよ。それでも誰かに信じてもらうまで、旅してるのね。 「じゃあ。あたしたちが信じてあげよう」 そんなあたしを見て、モイストも相槌を打つ。 「オレ信じる」 シャドルはその様子を気にくわなさそうに見て、こう言う。 「どうなってもしらねーからな」
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