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王女パヨピヨ愉快な仲間達 GROW UP〜王家の指輪〜  作者:桜田霞

第6回   不思議なコイン
さっきあったことを、全てダールさん達に話した。
「そうか…。見せ物小屋に無理やり連れて行かれそうだったのか…」
少年は地面をずっと見つめ、こちらには顔を上げない。
勝手な推測だが、彼はモンスターによって育てられた、そのモンスターとこの少年はなんらかの形で…。そして、あの女のモンスターハンターと出くわしてしまい、それで、親モンスターは殺されてしまったってことかな。そして、彼を追いかけに彼女はここまで来たって事か…。
「どんなモンスターが親なんだろうな」
サムワさんは焚き火のための枝を、炎の中へ投げ込む。
「…オレ」
さっきまで黙り込んでいた少年は、ぼそっと口にした。
それっきり何も言わなくなってしまった。
「しゃべることできるんだ…」
あたしが驚いて聞くと、少年はコクンと小さく頷く。
「おそらく物心ついた時には、まだ人間の側にいたんだろ。だから人間の言葉くらい少しは知ってるんじゃないか?」
と、サムワさん。
あたしは焚き火を見ながら、ダールさんに聞く。
「ダールさん。この子も、モンスターとして売るの?」
「おいおい。嬢ちゃん、なんだその心配そうな目。俺がそんな酷い奴に見えるのか?」
見えないけどね…。ちょっと心配になった。
「さあ。いくぞ! 少年よ!」
ダールさんが彼の手を持とうとすると、彼はあたしの後ろへと隠れる。
「嫌われたな」
細く笑むサムワさんに、ダールさんは苦笑いし、頭をかいた。
「どうやら、嬢ちゃんのほうがいいらしいな」
「え? あ、あたし?」
「お前が、そいつの面倒をしばらくみてやれ、ただし、町で目立った行動はさせるなよ」
ダールさんが真剣な顔つきになる。
な、なんであたしなの? また面倒なことに巻き込まれたみたい。
「ところで、キミの名前は?」
あたしが少年のほうに振り向くと、恥ずかしそうに口をもごもごさせる。
「モ、モイスト」


長いようで短いようなバイト生活が終わり、スイト町へ、戻ってきた。
モイストは大きめのマントで体を覆い隠している。さっきダールさんにもらった物だ。さらにセットで靴までモイストにくれたのだ。でも、まだ慣れない二足歩きのために、よたよたとあたしの後をついてくる。歩いているのがかなり違和感あるけど、しょうがないよね…。
あたしとダールさん達は、シャドルと待ち合わせたお食事を食べる場所へと足を運んだ。
「お。おけーり」
シャドルは、ビールのジョッキを片手に、あたし達のほうに向けて乾杯した。
「おい。シャドル何一人で飲んでるんだよ。まさか、俺達の手取りの金で飲んでるわけねーよな」
シャドルはそ知らぬ顔をする。
ダールさんは、シャドルの肩に右腕を乱暴にたたきつけた。ビールをこぼしそうになり、慌ててバランスを取り戻す。
「んなわけないじゃないっすか。もちろん。サムワさん達の分のビールもあるぜ」
なんか、あたしとモイストの存在に気づいてない? 勝手に盛り上がってますな。真昼間からビールって…。
 この人達は、いつもこんな風なんだろうか。お店に入った瞬間、お祭りかと思ったさ。賑やかな事。
 でも、賑やかの方が好きだけどね。
「あの。シャドル」
居心地が悪そうにしている、あたしとモイストを見て、目を大きく見開いた。何? その目。珍しい生き物でも見ているような目。
「そいつ誰?」
シャドルは、モイストの方を指差した。
モイストはシャドルを見ると、ぎぃっと睨む。
「こいつはな」
ダールさんがシャドルにモイストのことを耳打ちしている。
そーいえば、ハンドが見当たらないな。
あたしは辺りをキョロキョロと見回したのちに、シャドルの方に目を向けた。
「シャドル。ハンドはどこにいるの?」
「ああ。アイツなら、あんたが戻ってくるまで町でぶらついてるって言ってたぜ?」
「そっかぁ。まぁ。疲れたから、そろそろ休みたいなー」
シャドルがビールを片手にこう言う。
「宿屋にいけば、休めるだろ」
「道忘れちゃったもん。案内してよ」
あたしが聞くと、シャドルは持っていたビールを机に置いた。
「道くらい覚えろよ〜。しょうがねぇな。ダールさん悪い。また今度酒おごるから。今日は帰って休んでくるぜ」
「お前。今度酒おごるって言って、約束守ったことないぞ」
「図星みたいだな」
 サムワさんは、シャドルの方をじっと見る。
 そして、ダールさんが、あたしにこう言う。
「嬢ちゃん。こいつは酷い奴だから、こいつの口車に乗っちゃいけないぜ」
「ええ! そうなの?」
「今度は、もっと危ないバイト薦めてくるぞ」
 大声で笑うダールさん。
「そんなことないですよ」
 シャドルは苦しそうに笑うと、彼は“ついてこい”と言い、酒場を出る。
あたしとモイストは、ダールさん達に別れを告げてから、シャドルの後を追った。
改めて町の外に出ると、賑やかなんだな〜。
「パヨピヨ」
 モイストは嬉しそうにあたしの側までやってきた。
「どうしたの?」
「これ」
モイストが手に持っていた可愛いピンクの花を、あたしの髪の毛に刺してくれた。
「似合う。可愛い」
「あはは。ありがとうね」
モイストってちょっぴり恥ずかしい発言をするんだけど、でも、そこが素直で好きだな。一瞬自分が女の子なんだって事を思い出した。今まで女の子扱いされてなかったけど、モイストってあたしを女の子として扱ってくれるみたい…。
お、町の広場に大勢の人がいる。何かやってるんだ。何だろ。
「ねね。あれ何やってるのかな?」
人が噴水の前に集まっているのを見て、あたしはその様子を見に行った。
「う〜ん。見えない」
あたしが一生懸命ジャンプしても、人だかりの中にいる何かを見ることはできない。モイストも一緒になって、ジャンプをする。
「どうせインチキ手品師だろ。いっつもここにいる奴だ」
「手品師って何々?」
あたしが興味津々に聞くと、シャドルは深いため息をつく。
「何よ。そのため息。不快な気分になるんだけど」
「お前は辞書がなきゃ歩けないのかよ? 手品師ってのはな。指先や器具を巧みに操り、人の注意をそらせておいて、不思議なことをして見せる芸だ。おれたち魔法使いにとっては、あんなのインチキなもんだ」
そう言うと、ふんといって鼻息を吐く。
 ふーん。魔法使いと手品師って仲悪いんだ…。
「それよりいく…って戻って来い! パヨピヨ」
あたしは人だかりの中をかけ分けて入っていく。やっぱり一度気になっちゃったもんは、この目で確かめてみたいしね。
あたしはモイストの手を引っ張りながら、一番前の席まで行くと、全身黒色のスーツと黒のシルクハットを被っている、金髪で青い目のおじさんが、立っていた。
「次は、この中から鳩を出してみます。1・2・3!」
そう言うと、シルクハットの中から、自由になった白い鳩が数匹飛び出してきた。モイストはびっくりして口をぽかんと開けている。真剣になって見ていると、後ろから誰かに服を掴まれた。あたしはそのまま人ごみの中から出される。
「ちょっとちょっと! 服伸びちゃう!」
外に出た後、後ろを見ると、シャドルが仁王立ちをしている。
「ごめん〜」
あたしは少し反省して、他の方に目をやる。
「まぁ。わかってるならいいけど…って…おい」
シャドルの声が聞こえたが、あたしは、ピンクの屋根の可愛いお店の方へふらふら〜と歩いていく。
あたしはショーウィンドウを覗いていた。
「すっごい。なんか可愛い服〜。今、みんなこんな服着てるんだ」
黄色い派手なシマシマな靴下や、ぴちっとした黒いミニスカート。太ももあたりがルーズになっているブーツや、ピンクでヒラヒラした乙女チックな帽子。
そーいえば町の女の子の服見たけど、みんな可愛い服着てたなー。それに比べて、あたしの服なんて…。
あたしは自分の服を、ショーウィンドウに飾ってある服と比べた。隣でモイストも、あたしと同じ行動をしている。いいの。モイストは男の子だから。あたしは花も恥らう十八歳の乙女なのよ! おしゃれしたいわよ!
「ださい…」
あたしなんて思われてるんだろ。ださいって絶対思われてるなぁ。この服ほしいな。
この辺は服のお店ばっかりだ。なんか屋根とか可愛いし、あ。男の子の服も売ってるんだ。おしゃれな雰囲気な通りだ。外には植物が飾ってあったり、森で見たポムが鎖に繋がれて、こっちに尻尾を振っていた。
「ポムだ〜。可愛い〜」
あたしがポムをじーっと見ていると。
「おい。いい加減にしろよ」
シャドルは怒りを越して呆れていた。
「んもう! なにさ。いいじゃない。ちょっとくらい。って、モイストは?」
「あ? って、いねーし! どこいったんだ?」
すると、モイストがあたしの前に、嬉しそうな顔をしてやってきた。
「もらった」
そうやって言って、あたしに差し出したのは小さいキャンディー。
モイスト…親を人間に殺されたって言うのに、あたしのこと信用してるみたい。でもシャドルのことはまだっぽいかな。さっきから、シャドルとの距離あけてるみたいだし。なんかちょっとした優越感〜。
親か〜…。ふと道端を見ると、仲良さそうに親子四人組が歩いている。二人の女の子が、お母さんとお父さんに抱っこされながら、はしゃいでいる。
…昔はあったかな〜。あんな風景。小さい頃、よく庭にある噴水の前で、父上がパヨリンをおんぶしていたものだ。それをうらやましがって、あたしが泣いてたっけ。それを慰める母上がいて…。あたしの事嫌いなのかなぁ。父上は…。もう最近では、二人とも国のことで忙しいのか、まったくもって相手されなくなっちゃった。ただ、しかるだけ…。これが多いかも。相手にしてくれる人っていったら、近衛であったルキラスしかいなかったな。彼は、あたしにとってお兄さんみたいな存在で、よくお城でかくれんぼとかした覚えがある。父上や母上に相手にしてもらえない時に、よく一緒に遊んでくれたなぁ。パヨリンの世話もしてたし、年はいくつくらいだっけ。あたしより三つ上だったかな? 大好きだったな。ルキラス。でも、そんな彼も、今は少し旅に出るっていって行ったまま帰ってこないし…。
お城に帰りたいなぁ…。
思い出に浸っていると、シャドルの言葉があたしの頭を叩いた。
「あのな、おれは、お前たちの保護者じゃねーんだから」
あたしとモイストが暗い顔をすると、シャドルがこう言う。
「そんな顔しても無駄だぞ。ほら。さっさとついてこい。今度服買ってやるからよ」
「本当? やった!」
ふと、地面を見つめると、何か光るものが目に入った。
「何?」
モイストはその小さく光るものを拾い上げると、太陽にかざす。
それは、小さな金色のコインだ。表には、何やら文字が、後ろには、バニーガールのお姉さんが、ウィンクしている絵が彫ってあった。
「何のコイン?」
あたしはコインをモイストからもらうと、それをなんとなくポケットにしまう。
このなんとなく入れたコインが、とんでもないものだという事を今はまだ知らなかった。
ポケットの中でコインと何かがぶつかる音がした。これは…あの鍵だ。そう父上からもらった鍵だった。なんだか、この鍵をあることを知るたび、自分のやるべきことが思い出される。そう。あたしは、王家の墓にいかなければいけないんだ。すっかり忘れてた。肝心な事を忘れて、何を冒険に浸ってるんだー。でも、もう少し浸りたい気分。お城に帰ると、こんな楽しい事できないしねー。
あたしって変…。お城に帰りたいとかいったり、まだこのままでいたいって言ったり…わがままなんだよね。
「なんだ? 何かあったのか?」
シャドルが気になって様子を見にきた。
「ううん。なんでもないよー」
あたしがニコニコしながら、笑うと、シャドルは疑問を残したような顔をする。
「おい」
この声は…。
後ろを振り返ると、ハンドがしかめっ面であたしを見ている。この人は、いつもこんなような顔だけど。
「あ。ハンド」
ハンドはうつろ気味でこっちへよってくると、前のめりに倒れてきた。
あたしはハンドの体をうまくキャッチする。
「うわわ。どーしたの?」
ちょっとドキドキしながら、ハンドの顔を覗き込むと、彼は苦しそうな顔をしている。
え? 病気? どーしよ。あわわわ。
「も、モイストお医者さん! お医者さん呼んでー」
「おいっしゃ?」
うわ。何? お医者さんって通じないの!?
「おい! 慌てんなって!」
と、シャドル。
あたしたちが、といっても、あたしだけなんだけど、慌ててると、突如、間の抜けるような音がした。それは何か小さな生物が鳴いたといってもいいような音。
ギュルルルル…。
「お腹すいてるだけなのね」
あたしは安心したような呆れたような気持ちになった。
まぁ。こんなところにいても仕方ないし、宿屋に行こうかな。
シャドルは、倒れたハンドを引きずりながら、宿屋に向かった。いつものシャドルが泊まっている宿屋にね。
「おや。お帰り」
眼鏡をはめ、背の低いおばあちゃんが、笑顔で扉を開けてくれた。シャドルが先に宿屋に入って行くのを見て、あたしも一緒になり入っていく。
「その子は、病気なのかい?」
おばあちゃんがハンドを見ながら言う。
「あ。いえいえ。ただお腹がすいてるだけですよ」
あたしがにっこり笑うと、おばあちゃんも同じしぐさをする。
入り口付近に、小さな机があり、奥からは、ハンバーグのいい匂いがしてきた。食堂があるんだろう。小さい机の向かい側には、一つの部屋があった。二階の
階段には、絵がたくさん飾られていた。
「うわ。すごい。棚がいっぱいあるね。これ何?」
あたしは小さい机の周りをぐるぐると見回す。
この間は、すぐに二階へ行って休んじゃったから、そこまで見てなかったけど…よく見るとおもしろいものばっかりじゃないー。
「そこは、お金払う場所だ。だああ。うろちょろすんなよ!」
シャドルがイライラしながら、あたしに言う。
あたしが周りを見渡していると、おばあちゃんが、あたしの肩を叩く。
「とりあえず食事を食べなさいな」
おばあちゃんに案内され、食堂へ。
食堂には、四つの丸いテーブルがおかれてあり、一つのテーブルには、椅子が六つ並んでいる。その奥には、台所の一部がちらっと見えた。さっきのハンバーグの匂いが強くなってる。
お客さんなのか、先にテーブルについてる、一人の男性が、水を飲んでいる。
「おまちどうさん」
台所から、コックの格好をしたおじいさんが、食事を持ってきた。
男性は、フォークとナイフを持つと、勢いよくハンバーグを頬張る。さっきまでムスッとしていた顔が、和む。
きっとすごくおいしいんだな…。
「おじいさん。お客様。四名様追加ですよ」
おじいさんは頷くと、黙って台所の方へ戻る。
ハンド君を椅子に座らせると、続いて、あたしとモイストとシャドルは、イスに座る。
「じゃあ。ごゆっくり」
おばあさんはそういうと、ゆっくりと玄関の方へ戻っていく。
「ふう。疲れた」
あたしは息をつくと、テーブルに顔を伏せる。
さっきまで食事をしていた男性が、あたしに話しかけてきた。
「あんた、ここの食事、初めてか?」
食事を食べ終わった男性は、げっぷをしながら、こっちを見てる。
「いえいえ、食事は初めてですね」
と、あたし。
「俺は常連客だが、ここのじいさんの食事は一流だ。無口なじいさんだが、さり気に優しいしなぁ」
「さっきおいしそうに食べてましたしね」
あたしが笑うと、むくっとハンドが体を起こした。どうやら、あたしの笑い声で目を覚ましたようだ。
「おはよう」
モイストが言うと、ハンドは、席を立って、周りを見渡した。怖い夢でも見ていたのか、汗をかいている。
「どこだここ」
「ここは宿屋だよ。今から食事をするとこなの」
そういうと、ハンドはなぜか顔を少し緩ませた。彼にしては穏やかな表情だ。いつもの顔とは想像できないくらい。
食事を食べ終えた後、シャドルが小さい袋をあたしに渡した。
「ほれ。約束の金だ」
「いくらくらい稼いだの?」
「さぁな」
シャドルがそう言うと、ベロをちょろっと出した。
「おい。いくらか教えろ。多くとってるんじゃねーか?」
 ハンドが横から割って入ってきた。
「忘れちまった。まぁ。いいじゃねーか」
 二人が言い合っている間にあたしはお金を持って、目を輝かせていた。
 これがあたしが稼いだお金…。ああ。大事に使わなきゃ…。
 あたしは袋を嬉しそうに、ぎゅっと握り締める。
 すると、力みすぎたのか、袋が床に落ちてしまった。そしてお金の転がる音がする。
「おいおい。何してんだよ…」
 シャドルがお金を丁寧に拾っていく。
「あはは」
 あたしが笑ってごまかすと、シャドルはあたしを横目にこう言う。
「なんかこいつに金渡すのが不安だ…。レジで預かってもらうか。ちょうどいい。おれの金も預けとくか、今日もここに泊まる予定だしよ。おい。おまえも貴重品預けとけよ」
あたしはシャドルに言われるままに、お金が入った袋の中に、王家の鍵も入れておいた。
「俺も預けるか…」
 ハンドも自分の分のお金も(少ししかないらしい)おばあちゃんに預けた。
今日は久しぶりにゆっくり寝れそう。何日ぶり屋根の下で寝ることができるのだろう。
ベッドに入ると、今日の昼に見た幸せな親子のことを思い出す。なんだかんだいって、お城が一番落ち着く。父上に会うとしかられてばっかだったけど、それが居心地よかったのかもしれない。
目の前には天井が見える…。薄っすらと父上と母上の顔が見えてきた。
「父上、母上」
 あたしは布団を顔まで被る。
天井に両親がいるかのように、あたしは“父上、母上”と何度も何度も小声で呼ぶ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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