次の日の朝。いよいよバイトの日だ。ハンドは宿屋で待ってるらしい。もちろんシャドルも一緒には行かない。あたし独りだけ、ちょっと心細いけど、頑張ろう! 宿屋にダールさん達が迎えに来てくれた。そのままあたし達は、一つの古い小屋みたいな所に行った。 「うわ。汚い所…」 思わず口を滑らしちゃった…。 でもすごい悪臭。動物の独特の匂いがプンプンと匂ってくる。 あたしは鼻を抑えながら、奥へと進む。 すると、長く白いひげにやさしそうな笑顔を持ったおじいさんが、奥から出てきた。 「おい! 親父! パロンを一匹借りるぜ」 と、ダールさんが大声で叫ぶ。 その行動にビクビクするあたし。この人はなんていうかパヨリンが嫌いそうなタイプかな。でも悪い人ではなさそうだなぁー。 「おぉ。やっと来たか。お前さんがくるような予感はしとったよ」 おじいさんがほっほっほといって笑う。 「パロンって何?」 あたしがダールさんに聞くと、隣にいたサムワさんがポケットから本を出す。 「これだ」 サムワさんが静かに本を開け、そこのページを見せる。 「パロン。大人しいモンスターで、人がよく乗り物などに使う。力が強く、馬車の代わりとして使われるのが多い…羊のような毛を持ち、頭に角があり、雄は尖っている。雌は一回半転くらい曲がっている…か」 モンスターでも凶暴じゃないやつもいるんだな。全部凶暴なやつかと思ってた。たぶんお城で勉強したんだと思うんだけど…。 「あ。そうそう。この本ってどこかで買ったやつなんですか?」 あたしが聞くと、サムワさんはこう言う。 「いや。これは自分で作った」 「え? どうやって?」 「今まで見てきたモンスターを、この本に書きとめてるんだ」 ハンターの人は、こうやってやってるんだ。なんか感心するなぁ。 一匹のパロンと荷台を繋ぎ止めると、あたし達は、荷台に乗り込んだ。パロンを操作する役は、さっきのおじいちゃんだ。結構な年なのに…まだまだ現役じゃぞと言って笑うおじいちゃん。おじいちゃんは狩場の手前で、あたし達を降ろしてくれた。そこでお別れなのだ。 よし。さっそく出陣だ!
行きの荷台の中で色々教えられたのをもう一度思い出す。 まずサムワさんたちが、モンスターを倒したら、といっても、殺しはしない。売るらしいから。それを、あたしがこの大きな網に入れる。そのとき、モンスターに襲われないようにといわれた。 それと、モンスターの巣窟に行くので、あたしも武器所持で、自分の身は自分で守らなければいけない。でもあたし武器使ったことないんだよな。一応脅しのためにはもっておけっていわれたけど、なんか無理そう。 荷台から降りると、さっそくサムワさんたちは、武器を取り出した。 熱い日差しの中、あたしは岩場に隠れながら、ずっとモンスターが来るのを待っていた。 今日は砂漠地帯で狩りだ。町から西にある位置。町からどのくらいかかったんだろう。う〜ん。ざっと四時間くらいかな? 馬車の中でずっと座っていたせいもあって、お尻が痛いよ。 それにしても暑すぎる。周りの風景が、ゆがんで見えるよ〜。ぎらぎらと光る太陽が、まぶしすぎる。 手を額にかざし、太陽を見ていると、ふと黒い影が目に映る。 「何!?」 あたしはおどおどしながらも、ダールさんから貸してもらったボウガンをしっかりと持った。 「おい! 嬢ちゃん隠れとけ」 ダールさんの怒鳴り声が、ここまで響いた。 岩場に隠れようと、急いで戻ると、血走った目つきで、頭に大きなアンテナみたいなのが立っている、体長五メートルほど、紫の大きな翼を持ったモンスターが目の前に立っている。 勘弁してよぉー。 「ひぃい」 あたしはその場にしりもちをついた。 その血走った目がこっちをじっと凝視してる。 モンスターの体が一瞬揺らいだと思ったら、それと同時にどすっと鈍い音がした。見ると、モンスターの翼に弓矢が刺さっており、そこの先から一筋の血が滴っていた。 「ぎぃいいいい」 モンスターは痛そうにもがいた。 「きゃああああ」 あたしは目を瞑ってその場に座り込む。 「嬢ちゃん。こっち来い」 ダールさんの声と太い腕が、あたしを掴んだ。 「モンスター痛そうだよ。やめてあげて。お願い」 あたしが涙を流しながら、ダールさんに抱きついた。 「おいおい。落ち着け。ちゃんと話を聞け。モンスターの狩りを始めて見たのか?」 「傷つけないであげてお願い」 モンスターだって痛いものは痛いんだもん。こんなことしたら、モンスターでも人間でも痛いよ。 すると、モンスターはどさっと力なく地面に倒れた…。 「…死んじゃったの?」 あたしが恐る恐る聞くと、ダールさんは大きな口を開けて笑う。 「おいおい。俺たちは、モンスターを捕まえる仕事してるんだぜ? 殺すわけないだろ。麻酔だよ。麻酔」 「麻酔って何ですか?」 「麻酔ってのは、簡単に言うと、眠り薬みたいなもんだ」 そう言うと、ダールさんは、ふっと後ろを見る。 その視線をたどっていく、うわ。サムワさん一人でモンスター捕まえてるよ。なんかすごいなぁ…。 なんだか複雑…。モンスターを痛めつけて捕まえるなんて…。でもそんな事言ったら、あたしが食べているお肉やお魚だって…みんな可哀想になっちゃう。 「嬢ちゃん、俺達はな、決して同情心を残して、モンスターを狩ったりはしない。それをするのは、モンスターに対して失礼だ。向こうも本気になって俺達に向かってくる。だから、俺達も本気になる」 ダールさんの言う通りかな。あたし都合のいい時だけ同情心をつけてるのかもしれない…。 ところで、さっきあたしを襲ってきたモンスターって何だろう。ダールさんに聞くと、こう答えてくれた。 さっきの怪物の名前は、ジェラドといい、体長は約五メートル程、趣味の悪いどす黒い紫色の翼、その血走った目で獲物をにらむ。性格は凶暴で、同一種族以外は、すべて敵とみなし、襲ってくる。 そんな危険な怪物とあたしは、張り合ったのだ(実際は、腰を抜かしていたんだけど、ここはかっこよく言ってみた)。 あたしの城には、そんな危険なものはいない! いるといえば、妹のパヨリンくらいかな? やっぱり城を出ると、色々なものがいるんだな。初めて実感をした。あたしを襲ってきたモンスターを、いっぱい集めることができた。モンスターって色んな種類がいるんだ。教科書で見たやつがいたけど、やっぱり実物で見ると違うなぁ。なんていうか迫力満点? 怖かったけど。 あたしは、今日あった出来事を、絵日記にして、書き残した。
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