■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

王女パヨピヨ愉快な仲間達 GROW UP〜王家の指輪〜  作者:桜田霞

第3回   明るい風が吹く町
森を歩いてると、さっきとは違う風景が見えてきた。森の緑色の背景とは打って変わって、こっちは、黄色っていう背景が似合う。賑やかで人の声がだんだんと近くなってくるたびに、安堵した。たくさんの建物が見えてくる。あたしはドキドキを隠しきれずに、そっちの方へ走っていく。
「ねね。この先には何があるの?」
ドキドキしながら、ハンドに聞く。
「町」
「ねね。町って何?」
「…なんで知らないんだ? 大勢の人間が住む場所だ」
「へー。どんなとこなんだろう」
胸を弾ませながら、どんどんと先へ進む。
建物が大きくなっていくと同時に、大勢の人が見えてきた。
見るもの全てが新鮮に見えた。
人の声が四方八方から飛び交い、外で物を売っているのかな? そこにいるおばさんが手招きをしている。花壇の花が色とりどりに咲いていて、綺麗な虹を作っている。暇なのか、馬と木で作られた箱の横で、あくびをしながら、新聞を読んでいるおじさんがいた。(なんかの乗り物だと思うけど、名前わかんないや)これが町だ。ここはなんて名前の町なんだろう。町の囲いの隅に看板が立ててある。見ると、そこには、スイト町と書いてあった。スイト町って名前かー。初めての町…。ここからあたしの旅が始まるのね!
「スイト町か…」
看板を物珍しそうに叩いたりしていると、後ろから声をかけられた。
「ねェ。そこの可愛いポニーテールの子」
ポニーテールで可愛い子? もしかしてあたしのことかな!? ポニーテールしてるし、顔だって可愛いほうだし。
あたしが声が聞こえたほうを振り向くと、金髪の兄ちゃんがいた。
左右のピアスがキラリと光る。猫のような目であたしをじーと見てくる。こんなに近くで男の子に見られるのは初めてだ。ちょっとドキドキしながら、その兄ちゃんを見る。
少し大きめの紺のズボンをはいていて、首に変な文字が書いてあるプレートのネックレスをしていた。
何か…意地悪そうなお兄さんだ。
「いいバイトあるんだけどやってみない? 時給二万アバだよ」
兄ちゃんが笑顔であたしを見てくる。
「バイトって何?」
 あたしが目を丸くして聞くと、兄ちゃんが頭をかきながらこう言う。
「バイトっていうのはなぁー。働くことだ」
お仕事か…。でも、あたしは働いている場合じゃないしなー。
「ちなみに短期間のバイトね」
 と、兄ちゃん。
ずっと背後で黙って聞いていたハンドが急に口をあける。
「お前、やれ」
一瞬凍りついた。
「え? な、なんで!」
「さっきも言ったろ? 俺は金がないんだ。半分やるから」
「それであたしに稼げって? 冗談じゃ…」
耳をかいていた兄ちゃんが、いらいらしながら頭をかきだす。
「ああ〜。身内話はどーでもいいから、やるのかやんねーのかはっきりしてくんねェ?」
さっきとは態度がコロッと変わったお兄さんを見て、少しびくっとした。
「お仕事って難しいの?」
 あたしが恐る恐る聞くと、兄ちゃんがあたしの肩を軽くたたく。
「安心しろ。バカでもできる仕事だ」
「えっと…あー。やってみようかな」
何事も経験かな…。生まれて初めて、他人から物を頼まれたし、働くってのはどんな物か知りたかった。
目を丸くした兄ちゃんは、すぐに笑顔に戻った。

その日の夕方。日が傾いて、真っ赤な夕焼けが顔を出したころ。町にいた子供達が家に戻っていく姿を見かける。あたしは、兄ちゃんからバイトの説明を聞いていた。これから、紹介されたバイト先の人に会うために、兄ちゃんと共に、町外れの酒場に行くのである。その前に酒場ってのを知らなくて、兄ちゃんに聞くと、そんなことも知らないのかってどやされた…。あんなに怒らなくてもいいのに。
あ。それで、そのバイト内容はというと…。モンスターハンターさんのお手伝いらしい。モンスターハンターっていうのは、モンスターを狩って生活をしている人で、依頼主などに、狩って来てほしいモンスターを聞いては、捕まえてくるケースが多い。あたしもよくわかってないけど、とりあえず、さっきの兄ちゃんから、聞いた話。報酬は、民間人並みに考えると、アイスクリームを一年間食べれるくらいのお金だ。高いかどうかわかんないけど。捕まえてきたモンスターを売るのが兄ちゃんのお仕事。
酒場に着いた。大きな建物で、大きなビールのジョッキが看板に描かれてあっる。
兄ちゃんが酒場の扉を開けると、そのままどんどん奥へと行く。あたしは戸惑いながらも、兄ちゃんの後にぴったりとつく。ハンドは平気なのかすすっと進んでいってしまう。
周りには、ひげがもさもさはえて、酒臭いおじさんや、強そうな戦士さん。女の人までいる! こんな野蛮な所に女の人いるんだ…。
一番奥の、一つのテーブルに、威圧感のある男二人が、座っている。
ま、まさか、あの怖いおっさんが…モンスターハンターさんかな。
「あ。サムワさん。こいつがバイトのパヨピヨです」
兄ちゃんは、あたしを前に出す。
サムワという男は、中年のおじさんで、顔は無表情。四角い顔に、無造作に伸びた無精ひげを掻きながら、あたしを見た。
サムワさんは、後ろにいるもう一人のハンターに目で訴えた。
もう一人のハンターさんは、サムワさんとは違い陽気な感じだ。大きな手で、あたしに握手を求めてきた。こっちの人は、中年でちょっとぽっちゃり系のおじさん。あたしは、慌てて、手を差し伸べた。
よかった。このおじさんは優しそうだ。
「お嬢ちゃんみたいな可愛い子が、こんなきついバイトすんのか…まあ。でもがんばれよ!俺の名前は、ダールだ」
 え? きついバイト? あの人嘘ついたなぁ。
 あたしがぎらっとした目つきで、兄ちゃんの方に振り返ると、兄ちゃんは関係なさそうに、他の方を見る。
酒場を出ると、大きな広場に出た。今日は宿屋という場所に泊まることになったので、兄ちゃんの後についていく。宿屋とは、一般の人が泊まる場所だってさ。それを兄ちゃんに聞いた時、驚かれてしまった。その宿屋は、その兄ちゃんが泊まっている所。
兄ちゃんの名前はシャドルと言って、魔法を使える家系に生まれたが、魔法は修業中。スイト町には住んでなく、魔法の道具や本を買うために、資金をここで稼いでるらしい。なんでも実家に寝たきりの病気の母親を助けるために、ある魔法を覚えなきゃいけないんだけど、それがなんだかさっぱりわからないんだって。それを調べて旅にでかけるらしい。
「なんかシャドルも大変なんだね」
 あたしは何不自由なく暮らしてるのに、世の中にはこうやって一生懸命になっている人がいるんだな。
 そう思うと、お城で何も苦労をしなく、過ごしていた日々を思い出して、罪悪感が生まれてきた。
「まぁな。お前らはなんで旅に出てるんだ?」
やっぱりあたし達にふられたか…言い訳なんて何にも考えてないな。
「んー。まぁなんていうかね。ある物を探してるんだ」
そういえば、ハンドはなんで旅してるんだろ。
「ハンドはなんで旅してるんだっけ?」
あたしが聞くと、ハンドは少し黙り込む。
 まさか、聞いちゃいけない事だったかなぁ。
「…ある男を探している。ここの大陸にはいても意味がないってことがわかったから、さっさとここを出たいだけだ」
それだけ言うと、ハンドは黙り込んでしまった。聞いちゃいけなかったかな?
広場から少し歩くと並木道がある。
「ここの並木道は、露店が開かれてて、賑やかなんだぜ」
「へー。露店って?」
あたしが聞くと、シャドルはあきれた顔をした。
「外で出してる店屋ってとこかな」
その並木道を越すと、一軒の赤い屋根の家が見えてきた。優しい老夫婦がひっそりと経営している宿で、泊まりに来るお客さんは少ないけど、常連客は結構いるらしい。この町にはいくつか宿屋があって、どの店もかなり必死らしい。だけど、ここは、そんな雰囲気が感じられなかった。
 あたし達は、その夜、宿屋でぐっすりと眠った。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections