森を歩いてると、さっきとは違う風景が見えてきた。森の緑色の背景とは打って変わって、こっちは、黄色っていう背景が似合う。賑やかで人の声がだんだんと近くなってくるたびに、安堵した。たくさんの建物が見えてくる。あたしはドキドキを隠しきれずに、そっちの方へ走っていく。 「ねね。この先には何があるの?」 ドキドキしながら、ハンドに聞く。 「町」 「ねね。町って何?」 「…なんで知らないんだ? 大勢の人間が住む場所だ」 「へー。どんなとこなんだろう」 胸を弾ませながら、どんどんと先へ進む。 建物が大きくなっていくと同時に、大勢の人が見えてきた。 見るもの全てが新鮮に見えた。 人の声が四方八方から飛び交い、外で物を売っているのかな? そこにいるおばさんが手招きをしている。花壇の花が色とりどりに咲いていて、綺麗な虹を作っている。暇なのか、馬と木で作られた箱の横で、あくびをしながら、新聞を読んでいるおじさんがいた。(なんかの乗り物だと思うけど、名前わかんないや)これが町だ。ここはなんて名前の町なんだろう。町の囲いの隅に看板が立ててある。見ると、そこには、スイト町と書いてあった。スイト町って名前かー。初めての町…。ここからあたしの旅が始まるのね! 「スイト町か…」 看板を物珍しそうに叩いたりしていると、後ろから声をかけられた。 「ねェ。そこの可愛いポニーテールの子」 ポニーテールで可愛い子? もしかしてあたしのことかな!? ポニーテールしてるし、顔だって可愛いほうだし。 あたしが声が聞こえたほうを振り向くと、金髪の兄ちゃんがいた。 左右のピアスがキラリと光る。猫のような目であたしをじーと見てくる。こんなに近くで男の子に見られるのは初めてだ。ちょっとドキドキしながら、その兄ちゃんを見る。 少し大きめの紺のズボンをはいていて、首に変な文字が書いてあるプレートのネックレスをしていた。 何か…意地悪そうなお兄さんだ。 「いいバイトあるんだけどやってみない? 時給二万アバだよ」 兄ちゃんが笑顔であたしを見てくる。 「バイトって何?」 あたしが目を丸くして聞くと、兄ちゃんが頭をかきながらこう言う。 「バイトっていうのはなぁー。働くことだ」 お仕事か…。でも、あたしは働いている場合じゃないしなー。 「ちなみに短期間のバイトね」 と、兄ちゃん。 ずっと背後で黙って聞いていたハンドが急に口をあける。 「お前、やれ」 一瞬凍りついた。 「え? な、なんで!」 「さっきも言ったろ? 俺は金がないんだ。半分やるから」 「それであたしに稼げって? 冗談じゃ…」 耳をかいていた兄ちゃんが、いらいらしながら頭をかきだす。 「ああ〜。身内話はどーでもいいから、やるのかやんねーのかはっきりしてくんねェ?」 さっきとは態度がコロッと変わったお兄さんを見て、少しびくっとした。 「お仕事って難しいの?」 あたしが恐る恐る聞くと、兄ちゃんがあたしの肩を軽くたたく。 「安心しろ。バカでもできる仕事だ」 「えっと…あー。やってみようかな」 何事も経験かな…。生まれて初めて、他人から物を頼まれたし、働くってのはどんな物か知りたかった。 目を丸くした兄ちゃんは、すぐに笑顔に戻った。
その日の夕方。日が傾いて、真っ赤な夕焼けが顔を出したころ。町にいた子供達が家に戻っていく姿を見かける。あたしは、兄ちゃんからバイトの説明を聞いていた。これから、紹介されたバイト先の人に会うために、兄ちゃんと共に、町外れの酒場に行くのである。その前に酒場ってのを知らなくて、兄ちゃんに聞くと、そんなことも知らないのかってどやされた…。あんなに怒らなくてもいいのに。 あ。それで、そのバイト内容はというと…。モンスターハンターさんのお手伝いらしい。モンスターハンターっていうのは、モンスターを狩って生活をしている人で、依頼主などに、狩って来てほしいモンスターを聞いては、捕まえてくるケースが多い。あたしもよくわかってないけど、とりあえず、さっきの兄ちゃんから、聞いた話。報酬は、民間人並みに考えると、アイスクリームを一年間食べれるくらいのお金だ。高いかどうかわかんないけど。捕まえてきたモンスターを売るのが兄ちゃんのお仕事。 酒場に着いた。大きな建物で、大きなビールのジョッキが看板に描かれてあっる。 兄ちゃんが酒場の扉を開けると、そのままどんどん奥へと行く。あたしは戸惑いながらも、兄ちゃんの後にぴったりとつく。ハンドは平気なのかすすっと進んでいってしまう。 周りには、ひげがもさもさはえて、酒臭いおじさんや、強そうな戦士さん。女の人までいる! こんな野蛮な所に女の人いるんだ…。 一番奥の、一つのテーブルに、威圧感のある男二人が、座っている。 ま、まさか、あの怖いおっさんが…モンスターハンターさんかな。 「あ。サムワさん。こいつがバイトのパヨピヨです」 兄ちゃんは、あたしを前に出す。 サムワという男は、中年のおじさんで、顔は無表情。四角い顔に、無造作に伸びた無精ひげを掻きながら、あたしを見た。 サムワさんは、後ろにいるもう一人のハンターに目で訴えた。 もう一人のハンターさんは、サムワさんとは違い陽気な感じだ。大きな手で、あたしに握手を求めてきた。こっちの人は、中年でちょっとぽっちゃり系のおじさん。あたしは、慌てて、手を差し伸べた。 よかった。このおじさんは優しそうだ。 「お嬢ちゃんみたいな可愛い子が、こんなきついバイトすんのか…まあ。でもがんばれよ!俺の名前は、ダールだ」 え? きついバイト? あの人嘘ついたなぁ。 あたしがぎらっとした目つきで、兄ちゃんの方に振り返ると、兄ちゃんは関係なさそうに、他の方を見る。 酒場を出ると、大きな広場に出た。今日は宿屋という場所に泊まることになったので、兄ちゃんの後についていく。宿屋とは、一般の人が泊まる場所だってさ。それを兄ちゃんに聞いた時、驚かれてしまった。その宿屋は、その兄ちゃんが泊まっている所。 兄ちゃんの名前はシャドルと言って、魔法を使える家系に生まれたが、魔法は修業中。スイト町には住んでなく、魔法の道具や本を買うために、資金をここで稼いでるらしい。なんでも実家に寝たきりの病気の母親を助けるために、ある魔法を覚えなきゃいけないんだけど、それがなんだかさっぱりわからないんだって。それを調べて旅にでかけるらしい。 「なんかシャドルも大変なんだね」 あたしは何不自由なく暮らしてるのに、世の中にはこうやって一生懸命になっている人がいるんだな。 そう思うと、お城で何も苦労をしなく、過ごしていた日々を思い出して、罪悪感が生まれてきた。 「まぁな。お前らはなんで旅に出てるんだ?」 やっぱりあたし達にふられたか…言い訳なんて何にも考えてないな。 「んー。まぁなんていうかね。ある物を探してるんだ」 そういえば、ハンドはなんで旅してるんだろ。 「ハンドはなんで旅してるんだっけ?」 あたしが聞くと、ハンドは少し黙り込む。 まさか、聞いちゃいけない事だったかなぁ。 「…ある男を探している。ここの大陸にはいても意味がないってことがわかったから、さっさとここを出たいだけだ」 それだけ言うと、ハンドは黙り込んでしまった。聞いちゃいけなかったかな? 広場から少し歩くと並木道がある。 「ここの並木道は、露店が開かれてて、賑やかなんだぜ」 「へー。露店って?」 あたしが聞くと、シャドルはあきれた顔をした。 「外で出してる店屋ってとこかな」 その並木道を越すと、一軒の赤い屋根の家が見えてきた。優しい老夫婦がひっそりと経営している宿で、泊まりに来るお客さんは少ないけど、常連客は結構いるらしい。この町にはいくつか宿屋があって、どの店もかなり必死らしい。だけど、ここは、そんな雰囲気が感じられなかった。 あたし達は、その夜、宿屋でぐっすりと眠った。
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