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王女パヨピヨ愉快な仲間達 GROW UP〜王家の指輪〜  作者:桜田霞

第2回   盗賊まがいのハンド登場
さっそくお城を出たあたしは、門の前でぽかーんと立っていた。
後ろを振り返り、塀越しに見る。高い塔が堂々と建っていた。なんだか、門がやけに大きく見え、自分が小さく見えてしまった。
思えば、あたしってこんな立派な所に住んでたんだよね…。
それを見た後に、自分の服装を見る。さっきまで着ていた煌びやかなドレスをはがされ、町の子供のようなシャツと半ズボンを着せられた。さらに帽子まで…。
持ち物は、リュックの中に着替えを二、三日分。たくさん持ってくと邪魔になるだけだしね。それと、お財布と歯磨きと…まあ、色々入ってる。
んで、父上に貰った鍵は、ちゃんとポケットに入ってる。最後の最後まで母上だけは心配してた。
(近くまで兵士を送らせましょうか?)
もちろんそれを遮ったのは父上だったけどね。
地面に座り込み、足元の小さな蟻をじーっと見ていた。考えてみれば無謀だったかな? まあ。いつまでもここにとまどっているわけにもいかないね。なせばなる! うん。がんばろ!
城門から少し歩くと、町へ続く森がある。
深い森の奥は、薄暗い空気を放っており、風がスッと吹くと、森全体がカサカサと音を立て、うめく。
あたしは警戒しながら、ゆっくりゆっくりと足を踏み出していった。
うう。なんだか奥が暗いな…。
チッチッチ。
小鳥のさえずりが聞こえてきた。
ううっ。気味悪いな。
その声が、悪魔のささやきに聞こえる。
ああ〜。やっぱり、お城でおとなしくしてたほうがよかったのかも。今から戻ろうかな…。でもかっこ悪いよな〜。
あたしが歩くと、森の木が騒ぎ出す。あたしが止まると、森の騒ぎがおさまる。それが繰り返されていた。奥に行くにつれて、森の明るさが消えていく。
「なんか怖くなってきたな」
あたしは、リュックのショルダーをぎゅっと握り締めた。
やっぱり、誰かに森までついてきてもらうべきだった…。
その時、草むらのほうがざわついた。
茂みのほうからだ!!
「うわっ!」
あたしは慌てて木の後ろに身を隠し、音がした茂みのほうを見つめた。
「チューチュー」
「なんだネズミか…」
胸を撫で下ろし、再び先へ行こうと思い、前を向いたとき、目の前に高さ二メートルくらい、口が裂け、目が真っ赤な木の形をした化け物が現れた。木の先は怪物の手なのか、尖っている。木の身体と一体化したような根っこが生えた足が、あたしの側にじりじりと寄ってくる。
「ぎゃあああああ!」
大声で叫んで、その場にへたれ込むと、少し後ずさり、体を立たせようとしたが、だめだ…腰が抜けて、動けない!
その化け物は、奇妙な声を上げながら、針のような鋭い枝をあたしに向けてきた。
次に何をすればいいのかすらわからくなり、頭が真っ白になる。
怖くて声が出ない。
心臓の鼓動が早くなるのを感じ、胸を抑えながら、じりじりと近寄ってくる木の怪物を見つめる。
獲物を仕留めるように、その鋭い枝が、あたしめがけて一直線に…。
反射的に目をつぶる。
あれ? 痛くない?
金属が木にぶつかる音がした。
なんだろう?
恐る恐る目を開けると、鋭い枝先が地面に落ちていた。
次の瞬間、怪物の体は縦に閃光が走り、真っ二つに割れたのだ。いったい何が起こったのかわからずに、呆然としていると、目の前に人が現れた。
漆黒の髪に、深く青い瞳を持った青年。
何かきらっと光る物が見えた。細長い刀だ。刀が鏡のように、あたしの顔を映しだす。左手に指先だけがでる黒い手袋をはめていた。髪は黒く空に向かってつんとたっている。感情が入ってないような目をしている。体黒いTシャツを着て、体型はやや筋肉質。明らかに悪役が似合いそうなその顔。
いつの間に…。呆然と座り込むあたしを、まるで獲物を見るような目で睨む。
かっこいいかも…。
その青年は、静かにこういう。
「さっきの化け物は、森に迷い込んだ動物や人間を襲うモンスターだ。この先、まだいろんなモンスターがいるぞ」
青年は、刀を取ると、その刃先をあたしに向ける。
「ひいいい。何するんですかぁ」
あたしは両手を上へ上げた。
化け物の次は、人間ですかぁ。
「おい。金置いてけ」
表情を変えない青年。
「な、なんで?」
「金がないからに決まってるだろ」
「だって、あたしお金もってないもん」
眉を持ち上げ、あたしの方をじっと見る。
「確かに、貧相な格好で、いかにも金もってなさそうな奴に見える。ちっ…。助けるんじゃなかったな」
青年は刀を、腰紐につけている鞘に収めると、さっさとその場を去っていく。
森は、さっきより不気味さを放っていた。
こんなとこに一人で置いてかれるのはごめんだ!
「ああ〜。待ってよ!」
とりあえず、性格は悪そうだが、あの青年についていくことにしたのだった。

青年の後をついていくうちに、あたしは、他の物に興味が移っていて、怖いって気持ちがどこかに吹き飛んでしまっていた。やっぱり外の世界って楽しい。初めて見る物ばっかりで、あたしの心の中にある好奇心を引き出してくる。
青年の後をついていくと、珍しい生き物を見た。青年に聞く。青年は、そっけないけど、ちゃんと答えてくれる。その生き物は、丸い形で耳がたらんとたれている。目はでっかく可愛い生き物だ。青年に聞くところは、この生物は、モンスターっていったほうが正しいのかな? ポムといいとても大人しいモンスターらしい。ペットとかで飼ってる人もいるんだってさ。
「可愛い〜。キミは一人ぼっちなのかな?」
あたしがポムを触りながら、ポムに話かける。通じるわけないけどね。
「仲間がいるから、連れて帰るなよ」
ギクッ。あたしが考えてたことお見通しだ。
「む、連れていくわけないじゃん。またね」
あたしはそう言うと、ポムの頭を優しく撫でる。
ポムは嬉しそうに、その場にジャンプしながら、あたし達を見送ってくれた。
「あ。この花綺麗だね。なんていう花なんだろ」
あたしは、薄暗い場所で一生懸命咲いている、薄いピンク色の花を摘んだ。
青年はちらっとこっちに目をやり、こう言う。
「それは、カピラっていう花だ」
「へー。いい匂いだね」
「…あぁ。言い忘れたが、その花、毒いも虫がついてるぞ」
「ぎゃああああああ!早く言ってよ! 虫! 虫! 虫が今、あ、あ、あたしの手に乗ったあああ!」
あたしは手をぶんぶんと振る、すると、その毒いも虫が、青年の方へ飛んでいく。
腰にぶら下げていた刀を抜くと、毒いも虫に向かって、一振りする。
空中で真っ二つになった毒いも虫は、そのまま地面に落ちた。
「毒いも虫、て、て、て、手に乗ったけど大丈夫なの? し、死なない??」
青年は刀を鞘に納めると、じっとあたしを見る。
「刺されてなければ問題ない。それより…お前、なんで俺についてくるんだ?」
うう。そう聞かれても…。
「なんで…なんでだろ」
笑ってごまかすと、彼は、呆れた顔を浮かべ、さっさと歩いていく。
「ちょ、ちょっとまって! あ。そーいえば名前は?」
正面を見たまま、こっちを振り返らずに、
「ハンド」
そう答えた。
「あ、あたしパヨピヨって名前ね」
「聞いてない」
かっちーん…。何。この人…。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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