しばらく森を歩いていると、薄い霧が見えてきた。霧が濃くなるにつれて、あたしの頭がだんだんと真っ白になっていく感じがした。あたしは、そのまま森の奥へ進む。 「パヨピヨ?」 コルクの声が聞こえてきたが、足が勝手に進んでしまう。一つの大きな湖まで来ると、あたしはそこを覗き込んだ。 「ここ…」 「何があるんだ?」 ハンドは、湖に近づき、刀を抜く準備をしている。 次の瞬間、自分でも信じられない行動をしていた。気づくのが遅かった。あたしは、首にぶら下げていた王家の墓の鍵を、湖に落としていた。我に返り、慌てて湖を覗き込む。 「あああああああああああああああ。鍵が落ちちゃった…」 「お前が落としたんだろ」 というハンドのツッコミ。 あたしだって好きで落としたんじゃない! 勝手にこの手がああ! 「見ろ!水が…」 コルクが湖のほうを指す。 見ると、湖にあった水が、だんだんとひいていく。水がひいていくにつれて、湖の底に埋まっていた灰色の石版が見えてきた。完全に水がひくのを確認したあたし達は、石版に導かれるように、水がひいた湖の中へ入った。 「何これ?」 あたしは興味津々に石版に触れる。 「文字が書かれてますわね。えっーと…」 シャパさんが、石版に書かれてある文字を読み始めた。 「我が愛するブリッド家の末裔よ。この地に、王家の宝物を手に取る者が現れるまで、私は眠り続ける。…ですって」 「これは、オーラム城にあるブリッド家の王家の墓?」 コルクがあたしの方をじっと見る。 やばい。ばれるかな。 「パヨピヨが鍵を落としたら、これが現れたな」 さらにハンド君が、いたいとこをついてきた。 「ってことは、おまえがブリッド家の王女なのか?」 シャドルの率直な質問に、あたしは黙り込む。 数分の沈黙。 誰も喋りださない中で、あたしは鍵を握り締めた。 「黙っててごめんね。だますつもりはなかったの」 それを聞くと、シャドルがこう答える。 「いや。別にそんなこと気にしちゃいねぇーよ。おれも、みんなもな」 言い方は、ぶっきらぼうだけど、その言葉がなぜか優しく聞こえた。 「ありがとうね…あのね。あたし、このお墓をずっと探してた」 あたしはお墓をじっと見つめる。 「入り口がどこかにあるはずだ。探してみよう」 コルクがにこっと笑う。 「フフ。コルクその必要はないわよ」 とシャパさんが言う。 「ホラ。ここに鍵穴が。少しこけがついてて汚くなってるけど、取り除けば、鍵は入るわよ」 石板の文字が書いてある、上の方に小さな鍵穴がある。見えにくいけど…。 「さすがシャパさん! 俺様が見込んだだけの女だぜ」 アヨユがいきなりポケットから出てきた。 「おめーは出なくてもいい所で出るんだな!」 シャドルが呆れた感じに頭をかく。 そして、いよいよ鍵を入れる瞬間。 この鍵を入れたらどうなるんだろう。中から宝箱か何かが出てきて、指輪が現れるのかな? それともあたしの祖先様が出てきて、“よく来たな。パヨピヨよ。お主に指輪を授けよう”なんて言われるかな? なんて言われるのかな? これでやっと家に戻れる。父上や母上やパヨリンに会える。最初は好奇心旺盛で外に出たものの、やっぱりお城に戻りたい…。なんて想像をしていると、後ろからツッコミが…。 「さっさと入れろ!」 シャドルとハンドの声が重なり、二人はそっぽを向く。 変なとこで気が合うなぁ。この二人って、意外に仲がよかったりして。 二回深呼吸をして、鍵を、その小さな穴に差し込んでみた。 ズズズズズズズ。 「うわああ」 周りの木が大きく揺れはじめ、まるで木が踊りを踊ってるように見えた。足がふらついて、立てる状況じゃなかったので、あたし達はその場に屈み込む。なにがなんだかわからずに混乱していると、さっきまであった石版の下から、大きな扉が出てきた。長年埋まっていたせいもあって、所々、崩れ落ちている。大きな扉の上の方に、丸い宝石が組み込まれていて、扉には、ツタが巻きつかれている。 揺れが収まると、誰もがそれに注目した。 「これが王家の墓…」 シャドルが物珍しそうに墓に近づく。 「待て」 ハンドはそう言うと、扉に向かって、石を投げた。 カツン…。響きのいい音が鳴り響いた。 扉に当たった石は、宝石から出てきた雷のような閃光に当たる。 すると、石は跡形もなく綺麗に消え去ってしまった。石が空気になったという表現がいいかもしれない。 「やはりな。王族の者しか入れんようになってるな。興味本意で近づくな。命を落とすぞ」 その話を聞いたアヨユは、ポケットの中から飛び出してきた。 「ピーピー」 リュックの中にいるドラゴンちゃんは、ここに置いていかなくちゃね。 あたしは勇気を出して、足を一歩、扉の前に出した。宝石の反応はなく、一安心をしていると、その宝石から声が聞こえてきた。 「ようこそ。ブリッド家を継ぐ者よ。お名前は?」 「わぁ。しゃべった! えっとパヨピヨ・ブリッド・スパニエルです」 あたしはその場から急いで離れた。 「パヨピヨ。怖がることはありませんよ。恐れずに中へ入ってください」 と、宝石。 宝石は話す時に、透明になったり、赤くなったりしている。あたしはみんなを見た。 「行ってくるね」 あたしが笑顔で言うと、みんなが一言づつこう言ってくれた。 「頑張れよ」 と、シャドル。 「せいぜい頑張ることだな」 と、ハンド。 「中に何があるかわかりませんが、お気をつけて…」 と、シャパさん。 「無理するな」 と、コルク。 あたしは思いっきり扉を開けた。奥は吸い込まれそうな闇に包まれている。一歩進むと、後ろの扉がしまった。まるでこれから、地獄へ行くみたいな感じ。またあの指輪の声が聞こえてきた。 「安心しなさい。ここには邪悪な輩はいません。光よ!」 その瞬間に、真っ暗だった中に光が灯った。 あたしの不安は一気に無くなった。光があると、なんだか安心するものだ。 中は遺跡風で、壁は石造りだった。石というより、岩と言った方が正しいかも。左右の壁に火が灯っており、中は、湿ったにおいがプーンとしている。殺風景な風景で、ただただまっすぐな道が続いているだけ。 あたしはゆっくりゆっくりと道を歩いていく。 沈黙のままで歩いているので、宝石に話しかけてみた。半分好奇心みたいなものだ。 「宝石さん。あなたの名前はなんて言うの?」 あたしは上を見上げる感じで、宝石に聞く。 「私はレッドフレイムと申します」 続いて、あたしは質問を問いかける。 「好きな食べ物は何?」 「食べ物など食べません」 「好きな男性のタイプは?」 「性別はありません」 て、あたしは何を聞いているんだ。確かに沈黙が嫌だから、こんなことを聞いたのだが…。それにしても、こんなふざけた質問に真面目に答えるレッドフレイムもレッドフレイムだ。 「ねね。あたしの前には、誰かこの墓へ来たの?」 「あなたのお父様がおいでになりました」 「父上がか…」 そりゃあ。先祖代々伝わる王家の墓だしね。あたしのおじいちゃんもひいじいちゃんも、ひいひいじいちゃんも、ここに来てるんだね…。 しばらく歩いていると、奥にある部屋から、眩い光が漏れてきた。 「な、何!?」 あまりの激しい光の眩しさに目をつぶる。 「見えない…」 ゆっくりと目を開けると、いつの間にか一本の細い道に立っていた。その下には真っ赤なスープのようなマグマが流れている。ボコ、ボコッと耐えずマグマの音が空気を焼く。 あたしは唾を飲み込むと、まっすぐ前を向く。 「あ、あれは」 道の先には、広い場所があり、行き止まりになっている。 「行き止まり?」 レッドフレイムの声が頭に響いてきた。 「パヨピヨ。ここからが試練ですよ」
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