さっきからどのくらいまったんだろう。 あたしは大きなあくびを一つすると、背を反らして、上空を見ていた。雲がゆっくりと動いている。 そこへひょっこりと懐かしい顔が逆さまに出てきた。あの深く青い瞳が先に目に入り、彼の漆黒の髪が光に照らされて、綺麗に輝いている。 そう。ハンドだ。これは夢じゃないよね? あたしは目をこすりながら、ハンドを見る。 「何してるんだ。煙が出てるから来てみれば…」 彼はあたしを見つめこう言う。 あたしは首を戻し、ハンドの方に向きなおす。 そーいえば、お金! 「それはこっちの台詞。お金と鍵返してよ」 「嫌だと言ったら?」 何も言葉が出なかった。 「理由は簡単だ。俺とお前が一緒にいる必要はない。だから金だけ奪う」 なんていう人なんだ。前から思ってたんだけどね。ここまで性格がひねくれてるとは…。 「ピー」 ドラゴンが小さく鳴く。ハンドは、その声でドラゴンに気づく。 「おい。そのドラゴンなんだ」 ドラゴンを見て言うハンド。 「えっと。これはさっきの洞窟でドラゴンに貰ったの」 「まさか…」 ハンドはこのドラゴンを知ってそうな口調だ。でも、あえて聞かなかった。 「さっきのは取り消しだ。一緒に行く理由が見つかった。行くぞ」 ハンドはそう言うと、お金の入った袋を返してくれた。王家の鍵をしっかりと確認すると、あたしは、それを首からつるした。 ハンドは、一瞬足を止め、こういう。 「ああ。先に言っとく。俺は方向音痴だから、あまり期待せんほうがいいぞ」 絶望的だった…。 それでもあたし達は、森林地帯へ突入した。 ハンドがいるから、モンスターが出ても平気だし。ハンドとアヨユの紹介を互いにした。やはり、コインというのに驚きを隠せないのか、あのハンドでも、アヨユを見た瞬間目を丸くしていた。 森林地帯は、視界が悪く、草を刈っても刈っても、目の前に必ず現れる。ハンドは、先頭を歩きながら、刀で草を刈る。草の残りかすがあたしの目の前にすっと落ちる。 「くそっ。ぜんぜんあたりが見えん」 「ねね。何か音しない?」 あたしは耳を澄ます。微かに何か鳴っている。何の音なんだろう。 少し広い場所に出ると、その音はまだ響いていた。上空に花火みたいなのが舞っている。 「あぁ。さっき俺達が放ってたスモークの実に答えてるんじゃねぇか?」 アヨユがポケットの中から言う。 「じゃあ。行ってみよう」 あたし達は、音がなる方へ向かった。だんだんと音が近くなっていき、懐かしい声が飛んできた。 「パヨピヨ!」 目の前の大きな草から声が聞こえた。 「ん? あ。その声はシャドル?」 あたしは目の前にある大きな草をどかすと、そこにはシャドル達がいた。 「なにが。シャドルだ! みんな心配してたんだぞ」 「ああ。わりぃわりぃ。俺様のこと心配してたんだな」 ケラケラと笑うアヨユは、その場の空気が一瞬白けたのを感じ取る。それっきり、ポケットの中に入ったままだ。 「とりあえず広い場所へ出ようか。ここでは話にくいだろ?」 コルクがみんなを広い場所へと誘導する。 「良かったわ。向こうで、ケムリが立っていたので、合図したかいがありましたわ」 シャパさんがほっと胸をなでおろす。 「何それ?」 モイストがドラゴンを指差す。 「私もさっきから気になってたけど、どこから拾ってきたんだ?」 意外に間抜けな質問だ。もうちょっと大騒ぎすると思ってたんだけどね。 「この子は後で説明するね」 「まぁ。無事でよかったな。パヨピヨが急に消えたから、びっくりしたじゃないか」 コルクがいうと、隣にいたモイストも小さく頷く。 「なんかね。あの洞窟で穴に落っこちちゃってね。そいで、あの山から出てきたんだ」 「なんかよくわかんねーけど。って、あああああああああああ」 シャドルは、そういうと、ハンドの腕を掴む。 「なんだ」 ハンドは冷たく払う。 「なんだじゃねーよ。おれの金返せよ」 シャドルってば、そんなに突っかかった言い方しなくてもいいのに。 「金ごときでぐだぐだ言うな」 ハンドはそう言うと、お金の入った袋を、シャドルの胸に押し付けた。 「なんだと!」 「ちょっと! 喧嘩してる場合じゃないでしょ! みんなで協力して、森を出よう!」 二人は睨み合うのをやめ、お互い反対の方を見る。 なんか。先が思いやられる。 「日が暮れますわ。夜に進むのは危険ですので、今晩の寝床はここにしましょうか」 シャパさんが辺りを見回す。 そういうわけで、あたし達は、ここを寝床にすることにした。 また野宿か…。いい加減ベッドで寝たいのにー…。草のベッドってのも悪くないけど、ただ虫が出るのがなぁ。あたし達は、また魔法陣を描いた中に入った。夕食は、またシャパさんが作ってくれた。やっぱりシャパさんの料理は、いつ食べてもおいしいや。あ。そうそう。食べている最中に、ドラゴンちゃんの事紹介してあげた。 「可愛いドラゴンですわね。何を食べるのかしら」 シャパさんはそう言って、カボチャのスープをドラゴンちゃんに飲ませる。 「ピー」 「あはは。食べた食べた!」 「これなんか食べるんじゃね?」 シャドルの声が後ろからして、振り返ると、大きな蜘蛛を素手で持っていた。 その瞬間体に寒気が走った。 「うぎゃああああああああああああああ!」 あたしは身をひるがえし、慌ててコルクの後ろへ隠れる。 「な、何すんのよ! そんな恐い物乙女に向けないでよ」 あたしは抗議の声を上げる。それとは裏腹にドラゴンちゃんはそれを見て目を輝かせる。 「ピーピー」 シャドルの側まで行くと、その蜘蛛をパクっと食べた。 「ひえええええ。あんなのえさにするの?」 あたしはドラゴンちゃんをじっと見た。 「どうやら虫の方が好物のようね」 シャパさんはクスクスと笑う。 「あたし…虫触りたくないよ」 そう言うと、みんなは顔を見合わせて笑った。
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