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王女パヨピヨ愉快な仲間達 GROW UP〜王家の指輪〜  作者:桜田霞

第10回   こんにちわ!ドラゴンさん
「…い…おい!」
アヨユに呼ばれて、目を覚ましたあたしは、違う場所にいた。
周りを見ると、さっきとは風景が違った。上から、外の光が、筋のように降り立っている。広い場所で、さっきの洞窟の狭さは感じられなかった。洞窟の湿った匂いが、鼻の奥につーんとくる。
「あれ。どこ? みんなは?」
目を凝らして、周りを見ているが、ここがどこなのかわからない。
「だああ。覚えてねーのか? パヨピヨちゃんは、ムドに壁にぶつけられた瞬間に、緩んでいた地面が壊れ、この穴に落っこちたんだ。それで、ここにきたんだ。みんなは、多分無事だろう…って、静かに」
アヨユは、そう言うと、広い場所を指差す。そこには、体長約五メートル程の大きな生き物が…。
「何…?」
小声で、アヨユに聞いたが、彼は何も答えない。
その大きな物体は、長い尻尾を弱々しく、上下に振っている。全身は緑色に染まっていて、所々に傷がついていた。足の爪は、長く伸びていて、背中には、大きな羽がついていて、やはりそこも傷がついていた。その威厳ある姿は、誰もが知っている有名なモンスター、ドラゴンであった。でもなぜか、その威厳さが今は消えそうになっていた。
「どうやら、このドラゴン瀕死状態だなぁ」
アヨユが小声であたしにささやく。
「なんとかして治せないの?」
「なんとかっていってもよ…。治し方なんてオレ様もしらね―よ」
「そ、そんなぁ…」
 もう役立たず。いつもは薀蓄たれてるくせにー。
あたしとアヨユがごちゃごちゃと話をしていると、
「そこにいるのは誰だ?」
大きな生き物から、低くそして疲れたような声が放たれた。その鋭い顔つきには、緊迫した空気が漂っている。偏見かもしれないけど、あたしは、ドラゴンは、悪いやつというイメージがどうしてもあったので、ドラゴンに見つかったら殺されてしまう。あたしは、自分が読んでいた絵本を思い出した。こういう場面でかっこいい王子様がいつも助けにくるシナリオになっていた。だけど、そんなこともあるはずもなく。
「人間だ!」
とりあえず、質問された答えにはちゃんと答えるアヨユ。
「人間か・・」
ドラゴンは傷ついた首を、ゆっくりと動かし、あたしの顔の間近まで、近づけてきた。
一瞬凍りついた。こんな近くにドラゴンがいる。あたしは慌てて、目をそらしたりする。モンスターでさえ、まだ見慣れていないにもかかわらず、いきなりドラゴンと会うなんて思ってもみなかった。ドラゴンは、あたしの匂いをかいたり、後ろからあたしを見たりしている。希少動物の気分になった感じだ。ドラゴンから吐かれる息が、後少しで生き絶えそうな感じを表している。
「人間よ。願いがある…これを…」
ドラゴンは、大きな手のひらを開いて、あたし達に見せた。震えてるその手の上には、子供が遊ぶドッチボールくらいの大きさの緑色の斑点入りのある卵が、ちょこんと乗っていた。
「これ…?」
あたしはその卵を両手でとる。
「それを…裏の世界の者に、渡すな…」
え?裏の世界の者? 魔物とか怪物が住んでいる世界にいる人達の事?-
「え。ちょっと、なんであたしなの?」
その話を無視するかのように、ドラゴンは、話を続ける。
「ここより、どこか安全な所へ、それを…」
そういうと、翼をゆっくりと降ろす、さっきの緊迫した空気は取れて、まるで、安心したかのように、穏やかな顔つきになる。そして、静かな空気が流れてきた。
「誰かに追われて、ここまで来たようだな。それに、その卵、俺たちしか渡す相手いなかったから、しょうがねーな」
アヨユがドラゴンが横たわってるのを見ていう。
「まさか…死んじゃったの?」
 あたしがドラゴンの側に行き、大きなまぶたを見つめた。ピクリとも動かない…。
「しょうがねーけど…その卵がドラゴンの形見じゃねーか? ドラゴンのためにもオレ様達が卵を守ってあげなきゃな」
「そっか…ごめんね。助けれなくて…」
 あたしはドラゴンの頭を撫でると、卵を優しく持つ。
 なんとかしてあげたいけどできなかった…。あたしはそんな力ないもの…。
「とりあえず、ここから出ようぜ」
「うん…そうだね。うわっ」
卵を持って歩いてたため、その場でこけてしまった。卵は宙に円を描き、そばにある固い岩にごつんと音を響かせる。
「大丈夫か? 怪我してないか? パヨピヨちゃん」
さっきまでポケットから顏をだしていたコイン(アヨユ)が転んだ拍子に、地面に落ちた。
「うん。大丈夫。ちょっとすりむいただけ」
「手から血とか流れてねーか?」
アヨユに言われ、右手を確認。うん。血は出てない。右手も確認してみた。アヨユが冷静な目に戻る。 一応心配してくれてるのね。なんだか嬉しいな。こうやって人に心配されるのって、しかもさっき会ったばかりなのに。
「卵は?」
アヨユが地面に落ちている卵を見つめた。
忘れられて、ぽつんと孤独におかれていた卵を、あたしは慌ててだきあげる。不思議な事に卵は傷一つついてない。
「良かった。無事みたい。って、いや〜ん。やっぱ血出てた」
右手の手のひらから肘にかけて、すっと赤い線が流れていた。
「うわ。卵にもつけちゃった!」
「まぁまぁ。とりあえず落ちつけって、何か拭くもの…ってないよなぁ。まぁ。それだけの傷だ、すぐ治りそうじゃねーか? 大丈夫! おちびちゃんは、回復力早そうだし」
卵をリュックに入れようとふと卵を見ると、一瞬光って見えた。
「?」
「どうした? おちびちゃん」
「いや。気のせいかな…」
あたしはリュックに卵を入れると、前を向く。
「そうだねー。それより出口探そうか」
「出口か、あるとしたら、あそこか」
アヨユは遥か上にある、一筋の光を見上げた。
って、まてよ。ここ洞窟なのに、なんであんな穴開いてるの?
疑問を持ちながらも、あたしとアヨユは出口を探す。アヨユはぴょんぴょん跳ねながら、その辺をうろうろする。さっき落ちてきたとこを見たが、真っ暗で、しかも急な坂なので、戻れそうにもない。
しばらく出れそうな所を探してみたけど、やっぱり見つからない。
「ああ〜。疲れた」
あたしは岩の上に座り、ため息をつく。
こんなの見つかりっこないよ。出口上しかないから、どう登るか考えた方がいいかな。
「おい。ここ見てみろよ」
アヨユが、ごつごつした岩の影から、あたしを呼んでいる。
「何々?」
岩のそばまで行くと、小さな小さな穴が見えた。微妙に風の音が聞こえる。あたしはその場所を掘り起した。アヨユをポケットに戻すと、また掘り出す。
「出口が……」
モグラの気分になった感じ。爪の中も真っ黒で、指の皮膚も同じく黒くなっている。だけど、あたしは穴を掘る。
どれぐらい掘ったのか…時間を忘れるまで掘り続けてると、光が見えてきた。やっと人一人分抜けられるだけの穴が開いた。
その光に導かれるまま、あたしたちは足を進めた。その先は森林地帯が広がっていた。
「見ろよ。俺達が出てきたとこ山だったんだ」
出口を振り返ると、大きな山がそこにたっていた。
「なぜ、山が…」
 そうか。さっき洞窟に入る前に見た山が、この山なのね。
「さっきの洞窟とこの山の地下がつながってたんだな。とりあえず出れたからOKとしようぜ」
「んだね。早くみんなのところへもど…」
言いかける前に考えた。ここからどうやってみんなの所へ行くんだ? 先には広大な森林が生い茂っている。これは…絶対迷う。方位磁石なんてもってないし、大体どこに進めばいいのだろう。
「こりゃ…むやみに進まないほうがいいか」
まさにアヨユの言うとおりだ。森林地帯へ一歩踏み出せば、何が出てくるかわからない。といっても、こんな所で突っ立ってるわけにも…。
「んー。とりあえず。おちびちゃん。木集めて火をつけるか」
「へ? 森でも燃やす気なの!?」
「いやいや。みんながここだって分かるように煙で教えようぜ。俺様のように頭がいいから、こんなこと思いつくんだよなぁー」
「ムカッ」
なるほど。そんなこと考え付きもしなかったわ。
あたしは言われたとおりに、細かい木々を集めた。
シャドル達この辺にいるのかな。不安になりながらも、この煙を見つけてくれることを祈る。
「そうだね。んで、火をどうやって起こそう」
「ちっちっち。パヨピヨちゃん。知らないのか? 木の枝をこすり合わせばつけられるハズ。ただし手が痛くなるし、乾いた木じゃなきゃすぐつかねーな」
「空飛べたらいいのにね〜。こんな時魔法があったらな…」
ふと大きな透き通った空を見上げた。雲がゆっくり流れていて、ひとつの黒い点が浮かんでるのが見えた。
「ねね。あれなんだろ」
その黒い点は、なぜかこっちに向かって一直線に飛んでくる。
「あれは…。伏せろ!」
アヨユが大声で叫び、あたしは慌てて地面にへばりついた。
その点の正体がわかった。派手で大きな虹色の翼を持ち、鋭いくちばし。首が気持ち悪いくらい曲がっている。あれは…鳥だ! 翼をピンと広げこっちに向かってくる。瞬間すごい突風に覆われた。
「ぎゃああああああ。何?」
周りの木が大きな音を立てて、その辺にある石や草がゆれる。全身に小さな石や草があたる。
…数秒でそれは収まった。
周りを見ると、地面に沢山の葉っぱや石が落ちていて、あたしの体中に葉っぱが乗っている。
「もぅ。やだなー…」
全身の葉っぱを手で払っていると、肩に何か動くものが視界に見えた。
なんだか嫌な予感がしたが、その動くものと目線を合わせた。
「あぎゃああああああ。ムカデ! あっちいってよ!!」
肩に乗ったムカデと格闘していると、(まぁ。地面に落としたわけなんですけど)葉っぱの中に埋もれていたアヨユがひょっこりと顔を出す。
「なんだ。ムカデか。またアイツが来たかと思ったぜ」
「もう大丈夫かな」
ゆっくりと顔を上げると、鳥が飛んできた反対の空の方に、さっきの鳥がゆっくりと空を飛んでいる。地面を見ると、鳥が通っていった部分だけが、えぐれている。
「スピーダーバードだな。光る物が大好きで、まぁ。つまり、俺様が狙われていたわけなんだが、素早いスピードで獲物を狙う。攻撃しなければ害はないけどね。攻撃すれば、どこまでも相手を追っかけてくるしつこいモンスターだぜ」
急に鼻を刺激するツンとした匂いが漂ってきた。
「なんか変な匂いしない?」
あたしが鼻をピクピクさせると、アヨユも匂いを嗅いだ。(コインでも匂いは嗅げるものらしい)
「ん。まさかこの匂い…スモーク実か」
すると、さっきスピーダーバードが荒らしていった森の中から、煙がもんもんと上空に上っていく。まるで、空に吸い込まれるように。
「くさっ!」
あたしは鼻を抑え、その様子を見ている。
「良かった。これで、火をたかなくて済むぞ」
「ところで、スモーク実って何?」
鼻を抑えながら、アヨユに聞く。
「スモーク実って言って、落ちると、煙を実から出すんだよ。まぁ。そのまんまだけどな。まぁ。煙が出たことだし、少しの間、座って待ってよう」
しばしの沈黙、膝を抱えて地面をじっと見ていると、奇妙な音がした。何かが割れる音が…。
リュックの中からだ。まさか虫!?
あたしが慌ててリュックの中を調べると、今度は奇妙な声が…。
「ピー」
ピー? 一体リュックの中に何が…。
リュックの開け口を、汚い物をつまむように開ける。まるで中にヘビか何かいるみたい…。
予想とは違い、出てきたのは一匹の可愛い動物…。って、違う。羽がある。それに尻尾まで、立派な鋭い爪を持ち、全体が緑色をして、口は鳥みたいな口で、そこからピーピーと可愛い声で鳴き、瞳が青色でうるうるした目をしている。
「か、可愛い…」
「おい。それって、さっきの卵から産まれたんじゃ…」
アヨユが震えるような声を出す。
「じゃあ、ドラゴンなの? 裏の世界のものに渡すなって言ってたけど…あたし裏の者じゃないからいいよね」
あたしはそう言うと、そのドラゴンをぎゅっと抱きしめた。
「一応目立つから、リュックの中入れといた方がいいな」
「えー。嫌よ! せっかく生まれたばっかりなんだから、リュックに入れちゃうのは可哀相よ」
「まぁ。確かにおちびちゃんの言う通りだよなぁ。しばらくはそのままでいいか!」
うんうん。さっすがアヨユ。話せばわかるじゃん〜。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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