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ちいさい話 作者:かせいち

第2回   5〜9
5. 眠れない夜に



 眠れない。
 
 豆電球も消した真っ暗な部屋のベッドの中で、目をはっきりと開いて、壁に掛かったジャケットを睨む。         
 まったく、私も随分と着飾るようになったもんだ。
 
 結局全て無意味だったのに。
 
 ぐるんと寝返りをうって、枕に顔をうずめて無理やり目を閉じさせる。 
 
 眠れない。


 しばらくの間、呼吸もできないくらい枕に顔を押し当てていた。
 
 さすがに苦しくなって顔を上げると、何やら窓の外が明るかった。  
 
 起き上がってカーテンをめくると、外にはおいしそうな満月がぽかっと浮かんでいる。



 傍に居てください。
 
 傍に居てください。
 
 あなたぐらいは、せめて私が眠りにつくまでは、そこに居てください。


 それだけお願いして再び布団にもぐりこんだ。


 もう、なんにも考えずに、眠ってしまいたいのに。






6. ひとりの部屋



 自分が存在してることの価値。






 自分がここに居る意味。









 誰も居ない家に帰って来るのは嫌いじゃない。
 疎外感を感じなくて済む。
 疎外感ってのは、周りに人間が居て初めて生まれるものだから。









手持ち無沙汰

自分の置き場

雨の音

風の強い夜

愛して貰う

大きなテディベア

ことばの大きさ

あたたかいもの






 眠ろうとすると単語がうじゃうじゃ襲ってくる。










 居場所が無いなんてもうとっくに知ってる。
 その事実に掻き乱されることにつかれたんだ。
 考えることにつかれたんだ。





 人間は考える葦だって。
 じゃあわたしはただの葦だ。
 そんなもんだ。







 無意味にけらけら笑う。
 大きな口開けて手叩いて笑う。
 最近そうすることが多くなった。










 誰か人と居ても常に冷たい大きな塊が身体の真ん中にずんと居据わっている。
 それの名前をわたしは知ってる。





















 孤独感。






















 今日もまたつかれたなぁ。







7. 狂気

 

死にたくない
眠れない
0時に床に就く
2時半に目が覚める
びっくりした
突然動悸がした
誰も居ないっていう現実がいきなり襲ってきた
それで眠れなくなった
寝返り100回はした
5時に布団から出る
チョコを一口食べる
テレビを点けたら砂嵐
スピッツをかける
ロッソをかける
ジョンレノンのマザーをかける
参考書をちょっと読む
ネットに繋ぐ
死にたくなんかない
寒い
誰も居ないなら生きていたくなんかない
誰も見てないなら表したくなんかない
誰も聞いてないなら話したくなんかない
誰も頭撫でてくれないなら泣きたくなんかない
誰も愛してくれないならわたしの意味なんかない
意味なんてない
わたしのすること全部




8.きもち



喜びも怒りも哀しみも楽しさも
切なさも痛みも寂しさも苦しさも
恋しさも愛しさも優しさも温かさも
全部持ってるからひとっていうのはつかれるんだ






9.日常



たとえば、
朝、風呂上がりにベランダに出て煙草を吸っていたら、
向かいの民家から灰色の猫が出てきて伸びをしたりとか、
その背中のラインが美しいと思ったりとか、
その後幼い男の子がよちよち出てきてよくわからないふしで歌ったりとか、
そのうち雨が降ってきて、おじいさんとおばあさんが慌てて洗濯物を取り込み出したりとか、
そういうものに心を奪われて生きていたいと思うんです。






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Novel Editor by BS CGI Rental
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