手袋をなくした。 ちっ、と小さく舌打ちをして、私は元来た道を引き返した。 おそらくコートのポケットから煙草を取り出したときに落としたのだろう。
今日も雪が降っている。 降り積もって踏み固められた真っ白な雪道を見渡しながら歩く。 風が吹くと顔が凍りつくようにつんと冷たい。 どの辺に落としたんだろう、私のミトン。 柔らかなクリーム色の、ふわふわのミトン。 あの人が私に似合う色だと買ってくれたミトン。 穏やかで優しくて、ほんわかしてて、女の子らしい私にぴったりの色だと言っていた。 笑わせる。 そんな女の子がどうして煙草なんか吸うか。どうして午前2時半の誰も居ない雪道をひとり歩いたりするか。 ポケットから手を出して、灰を落とすために煙草をつかんだ。 一瞬にして手が冷え切る。 くそ、寒い。 なんで今年の冬はこんなにも寒いんだ。 雪だって、なんで懲りもせずこんなに降り続けてんだ。 私のイライラなんか知る由もない無知な雪は、つらつらとわたしめがけて降りてくる。 (雪、きれいだなあ)
どこからか声が聞こえてきた。
(俺、冬って好きだよ。寒いけど)
ああ、嫌だ、
(寒いけど、その分、手つないだときにさ、あたたかさがよくわかるから)
やめて、思い出したくない、
私は冷え切った手をポケットに戻すのも忘れて、立ち尽くした。 私の手を包み込んでくれるもの、全部、なくなってしまったんだ。 私はいつだって冷たい手をして待っていた。 誰かが包み込んでくれるのを。 あたたかさをずっと待ってたんだ。 でも今私を取り囲んでるのは、優しいけど冷たい、雪だ。
私は再び歩き出した。 ミトン、私のミトン、一体どこに行っちゃったんだろう。 真夜中の雪道で、私はちっぽけな手袋を探してどこまでもざくざく歩いて行った。
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