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雪の中のふたつの話 作者:かせいち

第1回   ミトン


 手袋をなくした。
 ちっ、と小さく舌打ちをして、私は元来た道を引き返した。
 おそらくコートのポケットから煙草を取り出したときに落としたのだろう。

 今日も雪が降っている。
 降り積もって踏み固められた真っ白な雪道を見渡しながら歩く。
 風が吹くと顔が凍りつくようにつんと冷たい。
 どの辺に落としたんだろう、私のミトン。
 柔らかなクリーム色の、ふわふわのミトン。
 あの人が私に似合う色だと買ってくれたミトン。
 穏やかで優しくて、ほんわかしてて、女の子らしい私にぴったりの色だと言っていた。
 笑わせる。
 そんな女の子がどうして煙草なんか吸うか。どうして午前2時半の誰も居ない雪道をひとり歩いたりするか。
 
 ポケットから手を出して、灰を落とすために煙草をつかんだ。
 一瞬にして手が冷え切る。
 くそ、寒い。
 なんで今年の冬はこんなにも寒いんだ。
 雪だって、なんで懲りもせずこんなに降り続けてんだ。
 私のイライラなんか知る由もない無知な雪は、つらつらとわたしめがけて降りてくる。
 
(雪、きれいだなあ)

 どこからか声が聞こえてきた。

(俺、冬って好きだよ。寒いけど)

 ああ、嫌だ、

(寒いけど、その分、手つないだときにさ、あたたかさがよくわかるから)

 やめて、思い出したくない、

 私は冷え切った手をポケットに戻すのも忘れて、立ち尽くした。
 私の手を包み込んでくれるもの、全部、なくなってしまったんだ。
 
 私はいつだって冷たい手をして待っていた。
 誰かが包み込んでくれるのを。
 あたたかさをずっと待ってたんだ。
 でも今私を取り囲んでるのは、優しいけど冷たい、雪だ。

 


 

 私は再び歩き出した。
 ミトン、私のミトン、一体どこに行っちゃったんだろう。
 真夜中の雪道で、私はちっぽけな手袋を探してどこまでもざくざく歩いて行った。


 

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Novel Editor by BS CGI Rental
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