教師は暗い更衣室の中をそっと覗いた。その匂いが鼻をつく。 中に捜し求める人物の姿はなかった。 すぐにプールサイドへ向かう。 闇夜の中、教師は辺りを見回した。 常備灯に羽虫が群がっている。 どんよりとした厚い雲が空一面を覆っている今夜は、いつもはくっきりとその姿を水面に見る事ができる月も見えない。プールの水は日中のそれとは打って変わって、まるで全く別の液体のように澱み、溜まっているように思える。 ――彼女は、やはりプールサイドに座っていた。両足の先を水の中へ入れ、水面をかき回しているのが見える。 ここへ来る前から、教師は期待に胸を膨らませていた。 今夜こそ彼女と・・・・! と、固く決意し、ここへやって来たのだ。彼女のいない生活は、もう教師には考えられなかったし、自身で思っている以上に彼女に魅了されていた。 何だか地に付かない足取りで、教師は彼女に近付いた。 ――ピチャン・・・・! 不意に、水面で水を弾いた音がした。 「?」 彼女ではない。 教師は水面に目を向ける。彼女はその音に気付かないのか、相変わらず足で水をかき回していた。 しばらく目を凝らしても何も見えない。教師はそのまま視線を彼女に移し、その背後に立った。 「涼子――」 その名を呼ぶ声は擦れている。 「先生・・・・」 彼女――、速水 涼子は、音もなく立ち上がると、そのしなやかな体を教師にしっかりと密着させた。 ――チャポン! またあの音が聞こえた。今度のは少し大きい。 そうしている間にも涼子は教師に身を委ねてくる。幸福感に全身の感覚が酔いしれているようだ。教師が涼子をしっかりと抱きしめると、彼女はその腕の中で身悶えする・・・・。 「センセ・・・・、んっ――」 開きかけた涼子の唇を教師は自らの唇でゆっくりと閉じた。その、彼女の体からみるみる力が失せていくのが分かる。 「んむ・・・・」 涼子が教師の背に手を回す。その間も唇は塞がれたままだった。 頭の中が真っ白になる。全てがどうでもよくなるくらいに、快感に流されそうになっている。教師 は何度も教え子の名を呼んだ。 そうして、二人の唇が離れる。涼子の口からは熱いため息が出た。その瞳が、妖しいくらいに濡れている。 ――何かがパシャリと水の中から飛び跳ねた。と、思うとドプン、と水の中に沈んだ。 誰も見ない、黒い波紋が水面に音もなく広がる。静かに――。 「先生・・・・、中に入ろ・・・・」 涼子が言う。 ついにその時が来た。心臓の鼓動が耳元で鳴っている。暗闇の中で、教師は言われるままに頷いた・…。
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