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海邪履水魚 作者:上山環三

第6回   密会
 教師は暗い更衣室の中をそっと覗いた。その匂いが鼻をつく。
 中に捜し求める人物の姿はなかった。
 すぐにプールサイドへ向かう。
 闇夜の中、教師は辺りを見回した。
 常備灯に羽虫が群がっている。
 どんよりとした厚い雲が空一面を覆っている今夜は、いつもはくっきりとその姿を水面に見る事ができる月も見えない。プールの水は日中のそれとは打って変わって、まるで全く別の液体のように澱み、溜まっているように思える。
 ――彼女は、やはりプールサイドに座っていた。両足の先を水の中へ入れ、水面をかき回しているのが見える。
 ここへ来る前から、教師は期待に胸を膨らませていた。
 今夜こそ彼女と・・・・! と、固く決意し、ここへやって来たのだ。彼女のいない生活は、もう教師には考えられなかったし、自身で思っている以上に彼女に魅了されていた。
 何だか地に付かない足取りで、教師は彼女に近付いた。
 ――ピチャン・・・・!
 不意に、水面で水を弾いた音がした。
 「?」
 彼女ではない。
 教師は水面に目を向ける。彼女はその音に気付かないのか、相変わらず足で水をかき回していた。
しばらく目を凝らしても何も見えない。教師はそのまま視線を彼女に移し、その背後に立った。
 「涼子――」
 その名を呼ぶ声は擦れている。
 「先生・・・・」
 彼女――、速水 涼子は、音もなく立ち上がると、そのしなやかな体を教師にしっかりと密着させた。
 ――チャポン!
 またあの音が聞こえた。今度のは少し大きい。
 そうしている間にも涼子は教師に身を委ねてくる。幸福感に全身の感覚が酔いしれているようだ。教師が涼子をしっかりと抱きしめると、彼女はその腕の中で身悶えする・・・・。
 「センセ・・・・、んっ――」
 開きかけた涼子の唇を教師は自らの唇でゆっくりと閉じた。その、彼女の体からみるみる力が失せていくのが分かる。
 「んむ・・・・」
 涼子が教師の背に手を回す。その間も唇は塞がれたままだった。
 頭の中が真っ白になる。全てがどうでもよくなるくらいに、快感に流されそうになっている。教師 は何度も教え子の名を呼んだ。
 そうして、二人の唇が離れる。涼子の口からは熱いため息が出た。その瞳が、妖しいくらいに濡れている。
 ――何かがパシャリと水の中から飛び跳ねた。と、思うとドプン、と水の中に沈んだ。
 誰も見ない、黒い波紋が水面に音もなく広がる。静かに――。
 「先生・・・・、中に入ろ・・・・」
 涼子が言う。
 ついにその時が来た。心臓の鼓動が耳元で鳴っている。暗闇の中で、教師は言われるままに頷いた・…。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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