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海邪履水魚 作者:上山環三

第4回   定期会議
 ここは順風高校旧校舎のとある教室――。
 今、一人の男子生徒がカッターシャツの胸元を広げ、下敷きをバタバタと扇いで、やれ涼もうと、涙ぐましい努力をしている。先程から、「暑ち〜」と言う、どうしようもなくだれた言葉が彼の口から出続けていた。
 彼の名前は多田羅 真人。もちろん、ここ順風高校の生徒で、初々しさが消えつつある(?)一年生である。
 真人は、今は一人しかいないこの教室に、あと最低二人は人が来る事を待っている。二人の内の一人は、神降 亜由美と言って、真人の先輩で何かと頼りになる人物だ。そしてもう一人は、同じ一年生で、何かと意見がぶつかり合う間柄である剣野 舞である。お分かりになる事とは思うが、二人とも女性だ。が、『両手に花』などと浮かれている場合ではない。二人とも真人に対しては結構口うるさい存在(被害妄想か?)であったりするわけで・・・・。
 さて――、一体この教室でこれから何があるのかと言うと、ご存知、順風高校封鬼委員会の定期会議があるのである・・・・!
 封鬼委員会とは、生徒会、風紀委員会と並んで歴史の長い組織である。前者の二つには顧問の教師がいる事に対し、封鬼委員会には特定の顧問は存在しない。いや、あえて言うならば教師も生徒もない。ただ、伝統的に生徒だけで組織されているのであり、両者がその目的の為に封鬼委員会を存続させてきたと言えばいいだろうか。そして、生徒会と風紀委員会が表立った活動をしているのに対し、封鬼委員会はその裏で学校と生徒の為に暗躍する委員会である。
 つまりこの封鬼委員会は、普段の学校の姿からは予想もできないような、その明るさの裏側にある影の部分で起きる、不可解な事件を解決する為に設置された委員会なのである。
 とまぁ、そう言うと難しく感じるかもしれないが、実際はいろいろな個人的な理由があって封鬼委員として活動している者がほとんどで、結果、順風高校の平和が守られていると言ってもいいのかもしれない。真人にしても、オカルト好きが高じてメンバーに加わったと言う経緯があるのである・・・・。
 「――コラッ! だらしがないぞ!」
 突然大声で怒鳴られて、真人は「ワッ!」と、椅子から転げ落ちた。
 「アははははは」
 その明るい笑い声の主に、胸を撫で下ろしながら真人は恨めしそうな視線を向ける。「舞〜!」
 名前を呼ばれた舞は一瞬虚を衝かれたような顔を見せが
 「ったく何すんだよ! 余計に暑くなってきたじゃないか!」
 と、真人は自分が彼女を名前で呼んだ事に気付いていない。しかしその事に自分でも不可解な程の動揺を感じ、舞はそれを隠すように床に落ちた下敷きを拾い上げる。
 「――レディを相手にするんだから、もっとシャキッとしなさいよネ」
 舞も、真人と同じく封鬼委員会の一員である。雨の気配は全くないと言うのに、やはり彼女は赤い傘を持っている。それは彼女のトレードマークであると共に、いざと言う時の武器にもなる。『破魔剣』と言う、悪鬼・その他怨霊等の霊体へ直接攻撃を為し得る剣術を得意とする舞は、フェンシング部と掛け持ちで封鬼委員会に在籍していた。もちろん、委員会のメンバーは皆、彼女が刀精である事を知っている。それは舞が勇気を持って告白したからである・・・・。
 さて、指摘されて真人がシャツのボタンを合わせているところへ
 「ゴメーン、待った――?」
 と、息を切らせた亜由美が駆け込んできた。
 「珍しいですネ。先輩が遅刻だなんて」
 汗だくの亜由美に舞が口をすぼめる。
 「それが・・・・! 秋の・・・・、文化祭の出し物を決めるクラス会が、今日だったの・・・・! もう、それが揉めちゃって――。あ、舞。いいもの持ってるじゃない・・・・!」
 息も切れ切れの亜由美は舞から下敷きを取り
 「何で、こうも暑いのかしらね・・・・!」
 と、バタバタ扇ぎ始める。
 亜由美は陰陽師と言う、現代では生きた(死んでる?)化石のような職業を生業としてきた家系の、一応跡継ぎである。婿養子の父、慶一郎はそこそこ名の通った画家だが、神降家の現当主、亜由美の祖母であるカンナはれっきとした陰陽師である。そして、その祖母に手解きを受けた亜由美自身も、多少ながら陰陽術を使う事ができる。現在、彼女が主に使うのは祖母の護符を用いた封魔術の類であった。
 「――亜由美先輩、アタシがさっき真人にだらしないって言ったばっかりなんですケド・・・・」
 と、舞が先程の真人の場合とは違って拗ねた口調で言う。彼女は亜由美の事を『超』尊敬しており、頼りにしている。それはほとんど慕情と言ってもいいようなものであった。
 ところで――、ついでと言ってはなんだが、封鬼委員会の三年生についても、ここで紹介しておこう。ただしこの時期になると慣例で、委員会の実質的な活動は引退(卒業)を控えた三年生から二年生以下へ譲られる事になっている。その為、三年生二人がメインで登場する数は減ってくると思われるのだが・・・・。
 まず、最初に紹介するのは三年生にして新メンバーの一ノ瀬 綾香。
 進学クラスに在籍し、成績優秀な(体育は駄目らしい!)綾香は、霊視能力の持ち主で、梅雨前に起きた、ある事件――封鬼委員会シリーズ第九話『木漏れ日の便り』参照――がきっかけで封鬼委員会に名を連ねる事となった。
 ――余談だが、その美貌故にどこぞの影使い(亜由美の知り合い)と同じく、校内にファンクラブが存在するらしく、普段はあまり笑わない綾香が、時々見せるその笑顔は、ハッとするくらい美しい。
 そして、最後は現封鬼委員会、委員長の山川 大地を紹介しなくてはならないだろう。
 家が武道の道場を開いており、空手が得意な大地は、『破魔拳』の使い手だ(破魔拳とは、舞の使う破魔剣と同様に、剣ではなく己の拳で妖魔と戦う拳法の事である)。最近はあまり前線に出る事はなくなったが、舞が入るまでは大地が様々な悪鬼と戦う役回りを引き受けてきた。そんな肉体派の委員長を、戦術面では後輩の亜由美が支えてきたのである。そして、今やこの二人は知る人ぞ知るベストカップルなわけで・・・・。
 以上、封鬼委員会メンバー、五名の簡単な紹介を終了したい(更に詳しく彼らについて知りたい方は、ぜひシリーズの既刊【作者注:既刊等については現在検討準備中です。会社ゴンゴンのHPに一部第一期の作品を掲載しておりますが、正式にはそちらのページにて今後何らかの発表いたしますので今しばらくお待ち下さい】を手に取ってもらいたい)。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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