静寂に包まれたプールの更衣室。 外では小雨が続いている。――止めば、きっと虹が出るだろう。 部屋の中に、護符によって捕縛された涼子と、彼女を見つめる舞の姿があった。 視線を合わさない二人は、ともに憔悴しきった表情を浮かべている。 ふて腐れたかのような涼子に舞はチラチラと視線を向けながらも、話しかけるタイミングを完全に失っていた。 そんな時間がしばらく続いて、先に口を開いたのは涼子の方からだった。 「‥‥ねぇ、どうするの」 涼子は舞には一切目をくれず、締め切られた小さな小窓の向こうに視線を固定させたまま。 「涼子、アタシは――」 と、口籠もる舞に業を煮やしたのか、涼子が始めて彼女を見る――いや、睨み付ける。 「さぁ、好きにすればいいじゃない! 舞は封鬼委員会でしょう!」 「って言ったって――」 「分かってるの! 私は舞、あなたの――」 「分かってるヨ!」 舞は大きく頭を振って言う。「分かってるって――」 そんな事くらい‥‥と言う最後は尻すぼみ。 「なら早く!」 ドン! と、涼子は床を踏みつけた。 ――どうしろと言うのか。 舞は悲しみと苦渋の表情で涼子を見る。「涼子‥‥」 また沈黙が訪れ、その場を雨音が支配する――。 「涼子」 だが、今度は舞が続ける。「‥‥封鬼委員会はあなたに対して何もしないわ」 「エッ!?」 涼子はその言葉に驚く。「な、何を言って――」 「黙って聞いて」 舞は涼子の方に向き直ると言う。そして彼女を見据える。――舞の顔には漸くついた、ある種の決意が見て取れた。「もう二度とこんな事はしないで‥‥!」 「‥‥馬鹿じゃないの」 と、涼子は吐き捨てるように言う。しかし、そんな言葉を無視して舞は続ける。「それを約束してくれるなら、アタシはあなたの事を許す」 「‥‥」 「涼子!」 と言う問い掛けに、彼女は鼻で笑って顔を上げた。 「いいの、舞? 私は人間じゃないのよ」 放っておくとまた何をするか分からないわよ・・・・! と、涼子は自嘲する。 しかし、そんな言葉に対しても、舞は真摯な表情を浮かべて首を小さく左右に振る。 「アタシも人間じゃないよ。――でもみんなと同じだヨ」 「‥‥!」 涼子は面白くもないといった顔で舞を一瞥する。 「――ね、涼子」 舞は繰り返す。「約束して」
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