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海邪履水魚 作者:上山環三

第24回   二人
 静寂に包まれたプールの更衣室。
 外では小雨が続いている。――止めば、きっと虹が出るだろう。
 部屋の中に、護符によって捕縛された涼子と、彼女を見つめる舞の姿があった。
 視線を合わさない二人は、ともに憔悴しきった表情を浮かべている。
 ふて腐れたかのような涼子に舞はチラチラと視線を向けながらも、話しかけるタイミングを完全に失っていた。
 そんな時間がしばらく続いて、先に口を開いたのは涼子の方からだった。
 「‥‥ねぇ、どうするの」
 涼子は舞には一切目をくれず、締め切られた小さな小窓の向こうに視線を固定させたまま。
 「涼子、アタシは――」
 と、口籠もる舞に業を煮やしたのか、涼子が始めて彼女を見る――いや、睨み付ける。
 「さぁ、好きにすればいいじゃない! 舞は封鬼委員会でしょう!」
 「って言ったって――」
 「分かってるの! 私は舞、あなたの――」
 「分かってるヨ!」
 舞は大きく頭を振って言う。「分かってるって――」
 そんな事くらい‥‥と言う最後は尻すぼみ。
 「なら早く!」
 ドン! と、涼子は床を踏みつけた。
 ――どうしろと言うのか。
 舞は悲しみと苦渋の表情で涼子を見る。「涼子‥‥」
 また沈黙が訪れ、その場を雨音が支配する――。
 「涼子」
 だが、今度は舞が続ける。「‥‥封鬼委員会はあなたに対して何もしないわ」
 「エッ!?」
 涼子はその言葉に驚く。「な、何を言って――」
 「黙って聞いて」
 舞は涼子の方に向き直ると言う。そして彼女を見据える。――舞の顔には漸くついた、ある種の決意が見て取れた。「もう二度とこんな事はしないで‥‥!」
 「‥‥馬鹿じゃないの」
 と、涼子は吐き捨てるように言う。しかし、そんな言葉を無視して舞は続ける。「それを約束してくれるなら、アタシはあなたの事を許す」
 「‥‥」
 「涼子!」
 と言う問い掛けに、彼女は鼻で笑って顔を上げた。
 「いいの、舞? 私は人間じゃないのよ」
 放っておくとまた何をするか分からないわよ・・・・! と、涼子は自嘲する。
 しかし、そんな言葉に対しても、舞は真摯な表情を浮かべて首を小さく左右に振る。
 「アタシも人間じゃないよ。――でもみんなと同じだヨ」
 「‥‥!」
 涼子は面白くもないといった顔で舞を一瞥する。
 「――ね、涼子」
 舞は繰り返す。「約束して」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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