■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

劣等感の裏側に 作者:上山環三

第8回   異変
 土曜日の朝は雨が降っていた。もうそろそろ梅雨入りだ。
 雨の日は登校する気が減退する。あたしは少々憂鬱な気分になって、時計を見た。いつも家を出る時間まで50分程ある。ゆっくりできるかどうかの微妙なタイムリミットだ。
体調が優れない事は起きてすぐに分かった。しかし、どこがどう、と言う程具体的なものではなかった。熱もなかった。
 定刻に家を出る。なんだか頭がぼうっとしていた。
 今日は四時間目に体育があった。今日のメニューは何だっけ、とあたしは記憶を辿る。確か月曜日に先生が言ってたんだけど・・・・。背筋だったかな・・・・。
 一時間目の授業が始まった。相変わらず体は不調を訴え続けている。あたしは素直に休まなかった事を悔いた。でも、なんて言って休めばいいのか、その理由が思い付かない。ま、気分が悪いと言えば、体育ぐらい休めない事もなかった。――それでもその体育を休まなかったのは、休むと今日の計測のメニューを次回にこなさないといけない、と言う先生の一言があったからだ。
 「真奈美、がんばろうね」
 そう言って、由香があたしの肩を軽く叩いた。最近あまり彼女と話をした事がない。あたしはあいまいに微笑んだ。
 と――その時、あたしは由香に違和感を感じた。何だろう?立ち去る彼女の後ろ姿を見つめる。何か、変だ・・・・。
 胸?
 ――ズキン。
 「アッ」とあたしは短く叫んでいた。
 胸が物凄い痛みを発している。あたしは体操服の下にあるであろう、自分の胸に目をやった。激痛がまた走った。
 クラスメイトの、不安と好奇心がない混ざった視線があたしに集中する。あたしはその視線を浴びてうずくまった。
 体操服の下で、異変が起きていた。あたしはどうすればいいか分からなくなって、自分の体を掻き抱いた。恐れと不安が全身を支配し動く事もままならなかった。
 あるはずの胸が、あたしのバストがなくなっていた。
 ブラジャーが落ちかける。服の下でその紐が空しく捩れた。全身から汗が噴き出した。あたしがいくら自分の体を抱いて震えたところで、女性の象徴であるそれは、いつもの軟らかな感触を完全に失い、フラット化していた。
 あたしは絶叫した。気が狂いそうだった。
 そして――、あたしは気を失った。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections