翌日、登校してもあたしは昨日の出来事をまだ上手く把握できないでいた。 夢、幻、妄想・・・・。現実に起こり得ないその出来事は、それらの言葉で全てが片付けられるはずだった。 昨日までは――。 そう、昨日からあたしの中で何かが変わってしまった。見てはいけないものを見、聞いてはならないものを聞いてしまった。もう忘れる事はできない。昨日までのあたしに戻る事は、不可能なんだ。 「真奈美、大丈夫?」 昼休み、由香があたしの所へやってきた。 「うん」あたしは返事する。 「体、何ともない?」 「うん」 「・・・・心配したわ・・・・」 あれから、あたしはしばらく気を失っていたらしい。由香が介抱してくれたお陰で、あたしはすぐに意識を取り戻す事ができた。 「ねぇ、由香」 あたしは昨日からずっと繰り返し思っていた事を口にする。 「契約ってどういう事かなぁ・・・・?」 由香の表情が曇った。「さぁ・・・・」 「あの時、あたし何にも言ってないよ。なのに――」 「ほら・・・・、心の中で思っていた事とか、あるんじゃないのかな・・・・」 由香はぎこちない笑顔を見せた。「『デルモちゃん』ならお見通しなのかも・・・・」 ――そんな余裕はなかった。奇麗にして下さい、なんて甘っちょろい願い事が言える程、あの時の空気はポジティブじゃなかった。よね!? あたしはあの吐き気をまた思い出して体を震わせた。 こうして、まともに物事を考えている自分が、かなり不思議に思えた。そして、そう思った時、少なくとも同じものを見たはずの由香の反応が愚鈍な事にあたしは気が付いた。 なんでそんなに平静でいられるの? あたしは昨日の夜は一睡もできなかった。今朝、洗面所の鏡を見る事もできなかった。恐かった。 「真奈美?」 あたしが落ち着いていられるのは、明らかに由香の影響だろう。それくらい、彼女のリアクションはずれていた。そうでもなきゃ今頃病院の精神科にでもお邪魔しているところだ。 あたしは少し軽率だったのかもしれない。今更ながらそう思った。 「・・・・大丈夫よ」 あたしは微笑んだ。作り笑いだった。けど、由香にはばれないだろうと言う自信があった。 そして三日が過ぎ去った。嵐の前の静けさと言うけれど、この三日間は本当に平穏無事な日々が続いた。 でもその分、嵐は猛威を振る舞うかのように思えた。
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