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劣等感の裏側に 作者:上山環三

第5回   協力
 それはいわゆるおまじないの一種らしい。
 デルモと言うのはモデルの事。そう言えば一体何のおまじないなのか見当が付くだろう。それにしたってもっと他に言い様がなかったのか。・・・・ま、いいんだけどさ。
 ともかく、その『デルモちゃん』と言うのは、女の子の永久の悩みと言っても過言ではない(!)体型についてのそれを解消してくれる効果があるらしい。つまりその『デルモちゃん』にお願いをすれば、希望するボディラインを自分のものにできると言う・・・・。
 「真奈美?」
 あたしは返答に窮して、頭を掻いた。由香ってこんなの信じる子だったっけ?
 「笑わないでって・・・・」
 「笑ってなんかないよ。ちょっとびっくりしただけ」
 「・・・・」由香は少し不服そうな顔をした。
 「あのね、いい?」
 あたしはおもむろに口を開く。
 「おまじないなんかに頼るぐらいなら痩せる石鹸でも使った方が効果はあると思うんだけど」
 それに大体――、由香にはそんな事する必要なんかないじゃない!
 思わず口から出かけたその言葉をあたしは無理矢理押し込んで
 「誰から聞いたの?」
 と、どうでもいいような事を聞いた。
 少なくとも、あたしに相談してくれた事は嬉しかったし、由香の真剣な表情を見ると、とても羨ましがっているような情況ではなかった。だから真剣にあたしも応える。
 「陸上部の先輩」
 きっとその人に訊ねても似たような事を言うのだろう。
 「でも、先輩の友達は効果があったんだって・・・・」
 言わんこっちゃない、などとは口が裂けても言えない。あたしは油断するとため息が出そうになるのを我慢し、極力フレンドリーな笑顔を作るように努力しながら続けた。
 「由香、あんた陸上の記録出すのにおまじないが効果あると思う?」
 あるわけないっしょ。我ながら何聞いてんだか。
 「うん。あたしいつも大切なミサンガ付けて・・・・」
 なんだか懐かしい言葉を聞いてしまったあたしは、ちょっと感傷に浸ってから(何の?)我に返った。こりゃ重傷だ。
 「そ、そうなんだ。それならいいの」
 あたしは作戦変更を余儀なくされ、「あはは」と意味のない笑いを浮かべて間を取り繕う。
 こうなったらとことん付き合ってやるか!
 「――それで、あたしに何をして欲しいの?」
 「真奈美・・・・!」
 その時の由香の安堵した顔に、あたしはついつい調子に乗ってしまう。誰だって人から頼られるのに嫌な顔はしないじゃない。
 でも、後から考えるとコレがいけなかったんだと思う。
 そしてあたしは冗談半分に言ってみた。
 「大方あたしが実験台にでもなるんじゃないの?」
 ――それは半分図星だったらしい。
 「ゴメン」
 ここまでくると由香の方もいつもの彼女に戻って、あたしの前で手を合わせて見せる。ホント、調子いいんだから。
 でも上目使いにあたしを見る由香を、あたしは上から見下ろして言う。「まぁ。そこまで言うなら協力しないでもないけど・・・・」
 「ありがと、真奈美」
 「今度東屋のクレープが食べたいな」
 「分かってますって、お代官様」
 「こんな美人の代官がいるわけないっしょ」
 二人して馬鹿笑いしてると、図書室の閉館のアナウンスが流れてきた。そう言えば五時で閉まるんだっけ。
 由香が立ち上がった。あたしも、と続く。
 「じゃ、これからやらない?」
 不意に、由香が言った。「『デルモちゃん』呼び出すの・・・・」
 「え――」
 心の準備が全然できていなかった。
 「駄目・・・・?」
 「え、・・・・別にいいけど」
 「じゃ、行こうよ」
 由香はあたしの腕を取った。「い、行くってどこよ――?」
 後悔したけどもう遅い。
 「女子トイレ!」
 後には引けなかった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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