「ネェ、一体何なのよ・・・・」 清掃が終わり、手を洗うや否や、あたしはすぐさま由香の所へと駆け付けた。しかし―― 「真奈美んとこ、もう終わったの?」 教室を担当している由香の班はまだ清掃中だった。あたしの方が速い事もあるんだと、内心感心する。 しばらく待つと由香が清掃を終えてやって来た。 「とりあえず、どこかで時間潰そっか」 「え・・・・?」 途惑うあたしを尻目に、由香は歩き出す。 「ちょ、ちょっと待ってよ」 あたしはだんだん腹が立ってきた。いくらなんでも勝手過ぎる。少しは説明くらい・・・・。 「説明は図書室でするから」 ハイハイ、分っかりました。 あたし達は図書室へ向かって黙々と歩いた。その頃にはもう 由香の様子がいつもと違うことにあたしも気付いていたから、余計な事は聞くまいと、ただ黙ってついていった。 図書室は五時まで開いている。由香の様子だときっと時間一杯いるつもりなんだろう。彼女は一番端の、本棚に隠れて目立たない席に座った。 あたしも由香の向かいの席へと着く。 図書室に生徒はほとんどいなかった。それでも由香は辺りを見回して、話を聞いている者がいないか、確認した。あたしはさっきから一体どんな重大な話をされるのかと、妄想を膨らませていた。見たところあんまり、いや――明らかにめでたい話をするような雰囲気じゃない。 そうなると――一体どんな話が飛び出てくるのか、あたしには見当も付かない。考えてもみると、親友であるはずの由香の事も満足に知らない自分に驚く。確かに、知り合って二ヶ月ちょっとしか経ってはいないけど、あたしにとって彼女の存在は少なくとももっと重いものであるはずだろうし、そう思っていた。 「あのね、笑わないで聞いてくれる?」 何をおっしゃいます、笑うわけなんか・・・・。 「え」 笑う? 何を? あたしは由香の顔を見つめた。 「だから――」 由香は恥ずかしそうに言う。でも目は真剣だったけれど。 何だ、そう言う話なの?と、あたしはホッとする反面、ガックリとした。それならそうと――。 しかし、気を取り直し掛けたあたしが耳にしたのは、聞きなれない名前だった。 「真奈美、『デルモちゃん』て・・・・知ってる?」 え、何? 何だって・・・・!? 多分その時のあたしの顔は、結構キツかったんだろうと後からになって思う。 「だからその、『デルモちゃん』・・・・なんだけど」 由香は恐る恐る繰り返した。それはどう聞いても好きな人の名前には聞こえなかったし、そもそもまともな話に出てくるような人名(?)じゃなかった。 「何それ・・・・」 そうじゃないの? あたしはでも、真顔で訊いた。
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