女の子なら分かってくれる。 みんな同じような悩みを持っている。 いつもファッション雑誌の表紙を飾るモデルのスタイル。足がスラリと伸びていて、ウエストが細くって奇麗なバスト。 おまけに美人で・・・・。 あたしがどうあがいたってかなうわけないのは百も承知だけど――でも、そんなのってない! あたしだって奇麗になりたいよ。 奇麗になってすてきな恋をしてみたい・・・・!
「真奈美、また胸大きくなったね」 親友の由香がいつものようにとひやかしを言ってきた時、あたしの顔は丁度脱ぎ掛けた体操服の中にあった。 「いいなぁ・・・・」 ふざけた由香が調子に乗ってあたしの胸をつっついてきたので、あたしは思わず 「キャッ」と、声を上げしまった。 そのあたしの声に、周囲の視線が何事かと注がれる。覗きでも出たのかと思われたのだろうか。 ここは女子更衣室。あたし達は四時間目の体育の時間を終え、着替えている途中だった。更衣室の中はごった返していた。 春真っ盛り、運動能力テストのシーズンで、今も50メートル走の計測を終えてきたばかり。と言っても本気で走っていた子なんてほとんどいるはずもなく、みんな汗をかいてなんかいない。 その割に、あちこちで制汗スプレーのシューシューと言う音が聞こえた。 もちろん、コロンや香水の『匂い』はすでに部屋中に染み付いていてどうしようもない。この部屋自体が、大きな芳香剤の塊みたいなものだ。 「もう、ふざけないでよね」 あたしは頬を膨らませた。「見せもんじゃないんだから」 注がれる視線に弁解する為にも、あたしはちょっと大きな声で由香に抗議する。 「ごめんごめん。そんなに怒んないでよ。減るもんでもないんだからさぁ」 ――一向に反省の色のない親友にいつまでも腹を立ててるほど、あたしも人間ができていない。「もう・・・・!」 「すねない、すねない」 由香はそう言ってスカートのジッパーを上げた。彼女は着替えるのが速い。陸上部のエースだから走るのも速い。さっきもまじめに走っていたのは彼女くらいだった。そして、ついでにばらしてしまえば、彼女は食事のスピードも人一倍速かった。食堂のAランチを15分で食べてしまった事もあった。優雅さの欠片もなかったけれど。 「どうかした?」 「ううん、別に・・・・」 ――その由香の体型は、はっきり言ってスレンダーだ。こっそりと彼女の体型を盗み見て、あたしは我が身の不甲斐なさを(?)嘆く。 だてに陸上部のエースをやってはいないと思わせるその長くスラリと伸びた足は、密かなあたしの――いや、きっとクラスみんなの憧れだった。その上、彼女は長身でもある。 顔は――お互いいい線は行ってると思うんだけど、何故か二人とも彼氏いない暦を更新中で・・・・。 ともかく、由香のボディを目の当たりにする度に、あたしはコンプレックスを感じてしまう。どうして、どうしてこうも体型が違うのだろう・・・・。 そう思いながら、あたしは着替え終えた。 「真奈美、食堂までダッシュするよ!」 入り口で由香がその体勢に入っていた。あたしは「待って」と言いながら体操服をバッグに詰め込んでその場を後にした。 早く行かないと食べる物がなくなっちゃう! あたしの頭の中はもう昼食の事で一杯だった。体育の後はどうしても食堂に行くのが遅くなりがちで、何もかもが売り切れになってしまう。 もう! 誰よ、四時間目なんかに体育を持ってきたのはっ!
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