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相違相愛 作者:上山環三

第2回   クラスメイト
 篠田 正毅はクラスメイトで友人でもある、藤峰 祥子の様子が気懸かりでならなかった。
 近頃、何やら祥子は思い詰めているのだ‥‥。
 当初は、誰か好きな相手でもいるのかとか、進路の事なのかとか、誰でも思い付きそうな事を聞いてはみたが、返事はあいまいに返される。自分なりに考え付く事を全部訊ねては見たものの、やっぱり返事は返ってこないときた。
 念の為書き加えておくが――正毅と祥子は所謂交際しているわけではない。
 お互い気の合う友人同士と思っているからもちろん、正毅は恋愛対象として見た事はないつもりだし、彼はそう言う男女の親友同士っていうのもあっていいと思っている。
 そうして、最近は『ほっといて』とか『あっちに行って』とか、今まで気さくに話をしていた事が嘘みたいに、祥子の態度は冷たく豹変したのである。
 正毅は元来面倒見の良い方である。家でも年の離れた弟達の面倒を、共働きの両親よりかは見てきたと思っている。
 だから、彼女のことが心配でならない。
 ――きっと何かワケがある。時期がきたらアイツはちゃんと話してくれるさ。
 そうは思うものの、やっぱり気になって授業中もついつい彼女の方を盗み見ては考え込んでしまう正毅であった。
 その祥子がここ3日学校に来ていない。
 これは由々しき事態である。
 あの健康だけは優等生の祥子が三日間も休むなんて事は、想像する方が無理と言うものだ。
が、それもここ最近の彼女を見ていると、正毅は何とも言えなくなってくる。
 「篠田――」
 ハッとして視線を上げると、クラスメイトの剣野 舞が大きな瞳を真っ直ぐに自分に向けていた。「大丈夫?」
 「――え、あぁ」
 まさか自分が心配されているとは思わなくて、思わず正毅は反応に困ってしまう。
 舞はトレードマーク――今時トレードマークって流行らない、と正毅は思う――の真紅の傘を右手に持ち、左手に何やら古めかしい辞書のような本を抱えている。
 「俺も剣野に心配されたらお仕舞いだなぁ」
 と、うそぶいてみると
 「何ヨそれぇ! ひどォい」
 オーバーリアクション気味に舞が応える。「篠田こそシリアスな顔して、遠く見て何か考えてるんンだもん。似合わないよー、ソレ!」
 舞のよく通る声に正毅は慌てて人差し指を立ててる。
 「俺は大丈夫だよ。それより剣野、お前ここが図書館だって事分かってるのか?」
 「え? 分かってるケド」
 舞は目を瞬かせて左右に視線を泳がせる。「あァ――」
 ちらほらと迷惑そうな視線が自分に向けられている事に気が付いて、舞は首を竦める。
 やれやれと言わんばかりに、正毅は机の上に広げてあった解きかけの問題集を閉じ
 「図書館で勉強?」
 舞の顔をチョンチョンと、指差す。「お前が?」
 「うん、まぁちょっと調べ物で」
 ――まさか、先輩のパシリで『世界結界全書』と『残留思念とその再生法』を取りに来た、なんて言える訳がない! もっともパシリは自ら志願しての事だったが。
 「まぁいいけど」
 正毅は問題集を手早くバッグに仕舞い込んで立ち上がる。「心配してくれてサンキュ」
 「ウン」
 「おいおい、何かまだ言いたそだな。顔に出過ぎだぜ」
 そう言って笑う正毅。からかうつもりは無いけれども、舞と話しているといつもそう思う。
 「そうかナぁ」
 「悪ぃ悪ぃ。――それがお前のいい所だって」
 そう言われて素直に喜んでいいものか。
 「じゃ俺帰るわ。何だか勉強する気にもなれないし」
 「ア、ごめん。邪魔したね」
 「はは、剣野が謝んなよ。今日は最初っから気分が乗らなかったんだ。こう言う日は勉強するのが間違ってんだよ」
 と――、そこで携帯電話のブルブルというバイブレーションの音が二人の耳に入ってくる。
 「っと、俺のメールかな」
 正毅がバッグの中に手を突っ込む。「どこだっけ‥‥」
 タイミングと言うものもあるのだろうか。それ以上も会話を続けるのもちょっと引けたので、舞は書籍を抱え直すと、立ち去ろうとする。
 「祥子からだ――」
 「エ?」
 低い正毅の声に、思わず舞いは振り返る。「篠田?」
 見ると、彼は携帯電話の画面を凝視し、体を強張らせていた。



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Novel Editor by BS CGI Rental
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