「ふ〜ん、それでまたみんなで飯かぁ」 金曜日の放課後――。 旧校舎の封鬼委員会の部屋。 山川 大地は自分の席に着いて、亜由美たちの報告を聞いていた。 「まぁ、山川先輩。腹が減っては戦はできないと――」 「それを言うのは戦の前だろう。終わってからの話じゃないか」 「あ、確かにそうですね」 真人は舌を出す。 「もう、どっちでもいいよ」 大地は腐った表情で尋ねた。「とにかく、今回の件は無事に解決したんだろう?」 「はい」 亜由美はそう応えると、簡単に今回の事件のまとめを話し始める。 藤峰 祥子は姉の夏生の恋人である葉吹 聡を好きになってしまった。その想いを心の奥底に押し込んで、祥子は生活していたが、ある事が発覚し彼女はその想いを押さえきれなくなってしまう。 ――姉、夏生の妊娠である。 このままでは完全に葉吹を取られてしまう。そう思い詰めた祥子の折れた心に、悪霊がつけ入った。ここでどういうやり取りがあったのかはもう明らかにする必要もないが、悪霊は悪魔式の『契約』の元に祥子を巧く追い詰め、取引を行わせる。 ともかく、悪霊は祥子に姉の子を殺させ、その命を糧にしようという卑劣な企てを立てたのである。 そうして、アナグラムメッセージが込められたメールが正毅の携帯へと送られる。 「あのメッセージは祥子さんの良心がやった、精一杯の抵抗だったんです」 「そう言う事か――」 「舞もよく気が付いたよな」 真人が珍しく舞を褒めた。 「そんな、たまたまだヨ」 褒められると素直に嬉しい彼女である。 「綾香先輩が見た霊視もここまでの話を裏付けるものです。そして舞が聞いた留守伝のメッセージと白鴨さんからの情報。私と真人君が聞いた瀬良教授の夏生さんの話‥‥」 瀬良は――、本当に夏生の相手を知らなかったのだろうか。 亜由美は少なからず疑問を抱いていた。 そして、時津や白鴨が、瀬良を夏生の相手と見なした理由も、聞きそびれたまま今に至っている‥‥。 「今回はみんなの得た情報をまとめた結果、うまく事が運べました」 と、亜由美は大地に報告。「時津さんや白鴨さんの協力もありましたし」 「そうだなぁ――。にしてもその白鴨ってヒトが銀杏の木精だったとはねぇ」 木精――意志を持った樹木の(精の)事である。高位の木精になると人の姿を持った別れ身(実)を使い、ある程度自由に行動する事もできるという。 屋上から落ちた祥子を助けたのは3号館の脇に植えられた銀杏の古木の精であった。 「あれ、言ってませんでしたっけ?」 と、今度は亜由美が舌を出した。「古い文献には銀杏の別名に鴨脚子とか白実って言うのが使われているんですよ」 つまり、白鴨 実果は本当の姿である銀杏の古木に戻って葉をまき、枝を伸ばして祥子を助けたのである。 「知らないよ、そんなこと」 大地は仰け反った。「普通は絶対に知らない」 「そ〜んなに強調しなくても良いじゃないですか!」 亜由美は唇を尖らす。 「でも綾香先輩の霊視の情報があったからこそ、瀬良教授を説得して夏生さんを呼び出すことが出来たンですよネ」 舞はそう慌てて付け加える。「ア、だから大地先輩が一緒に居てくれたから綾香先輩も霊視が出来たワケですよネ――」 「ま、僕がいなくても彼女はやり遂げたと思うけど」 もはや、何を言っても逆効果らしい。 「そう言えば神降先輩の護符、凄い威力でしたよ」 と、真人が今度は亜由美に話しを振る。「あと何枚か貰えませんか?」 悪霊に最後のトドメを刺したのは真人であったが、その時使ったのは事前に亜由美から渡されていた彼女の護符である。 亜由美はそう言われて、 「アンタは何に使うか分からないから駄目ね」 と、あっさり拒否。 「そんなぁ‥‥」 「あ!」 と、またしても舞が、今度は真人に向かって声を荒げる。 「真人! アンタこの前の晩ご飯代、返しなさいヨ!」 「うへっ! 覚えてんの!?」 「ったりまえじゃないの」 舞が真人に躙り寄る。「五八〇円。うぅん、お釣りがないから六〇〇円で良いわヨォ」 こうして――、次の報告はいろいろとあったが、会議は紛糾。秋の夜長とは言うが、彼ら達の場合、放課後も長いようである。 そろそろ中秋の名月が近づきつつある、そんな秋の日の出来事であった。
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