「祥子ォ――ッ!!」 遠くで正毅の声が聞こえた。 答えたくとも、体は動かない。ただ、自分が落下している事は解った。 ――オ前ハ死ンデ俺様ノ糧トナルノダ! と、冷たい悪魔の声が頭に響く。 マサ――! お姉ちゃん――! 閉じたままの瞼から涙が溢れ、祥子と反対の方へ流れる。 ――助けてっ! その時、ザアァァッと、耳障りな音と大量の何かが自分の体に纏わり付く感触に、祥子は目を開ける。 「!?」 ――何ダコレハ! 慌てる悪魔。 信じられない事に何十、何百枚という木の葉でできたマットが、祥子の体を支えようとしている。 「きゃ!」 突然、何かにぶつかって落下が止まる。祥子の視線の先には葉を飛ばし、枝を伸ばして、自分の身を支える大きな銀杏の木があった。 『‥‥大丈夫?』 優しい女性の声が祥子の耳に届く。と、同時に枝は地面に向かって下がり、彼女を無事に着地させる。 『マタシテモ邪魔ヲスルカ‥‥!』 そう言う悪魔にもう力はほとんど残っていない。その動きは緩慢だ。そこへ 「――妖斬符!」 『ゲァッ!』 悪魔目がけて破魔の護符が放たれる。 「大丈夫か! 藤峰!」 そう言いながら駆けつけたのは真人である。こちらも動けなくなった祥子の前に立ち、 「悪霊退散!」 と、更に護符を放って悪魔の動きを完全に止める。そして取り出した短刀で素早く地面に何かの文字を書くと、真人は妖斬符とは別の護符を一枚その上に置き 「封魔捕縛!」 印を結んで術を発動させる。 『ガァ――ッ』 地面から出た光の渦が悪魔を捕らえた。 直ぐに真人は結んだ印を地面に向ける。すると光はそれに従って、悪魔を飲み込んだまま地面の護符に吸い込まれてゆく。 ――――ッ! 光は断末魔の叫びすらも掻き消して、後には何事もなかったかのように、一枚だけの護符が残った。
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