そんな事は決して許さない。 ――神様が許しても、私が許さない‥‥! 祥子は葉吹と夏生が抱き合う姿を見て、凄まじい表情を浮かべた。 そんな彼女にまとわりついた闇が、障気へと変わるのに、それほど時間はかからない――。 清らかなる月光を一切遮断して、闇は躙り寄る。 しかし――、その瞬間は突然起こった。 一つにまとまったはずのシルエットが、行き成り崩れ去る。 「アッ!!」 小さな叫び声。その声の主が分かり、祥子は思わず歩みを止める。 月明かりに照らされ、影がもつれ合う。 一人が組み倒され、無言のままの一人がその上に乗り上がる。 「――っ!」 助けを呼ぶその口を悪鬼の形相で塞いで――、葉吹は組み伏した夏生の、その喉を渾身の力で絞めようとする。 その時、 「葉吹ぃ――!」 そう声を荒げた時津が葉吹に向かって体当たりする。 「うぁっ!?」 時津の体当たりをまともに食らって、葉吹はそのまま時津と一緒になって夏生の上から転がり落ちる。 「夏生さん! 大丈夫ですか!」 と、亜由美と舞が夏生に駆け寄り、咳き込む夏生を抱き起こす。 「この野郎――!」 時津の罵声。彼はそう言って押し倒した葉吹を思いっきり殴る。 「時津さん! そこまでです!」 慌てて真人が時津を制す。「殴っても左右二発までっ!」
――目の前で起こる思いもよらぬ現実。
「‥‥ありがとう、大丈夫‥‥」 夏生は喉を押さえ、擦れた声を絞り出す。そうして自力で立つと、彼女は組み敷かれ項垂れた葉吹を、感情のない眼差しで射る。 「夏生さん‥‥」 そんな夏生に亜由美はかける言葉を持ちあわせていない。 「えぇ、大丈夫――‥‥」
今、彼は何を――
「さぁ、立つんだ!」 時津は大人しくなった葉吹を立ち上がらせる。その彼の左頬は赤く腫れ上がっている。
今、彼は何をしようとしたのだ‥‥! ドッと、祥子の中に彼の、葉吹 聡のこれまでの映像が鮮烈に流れ込む。 姉と仲良く話し込む姿――。 三人で食卓を囲んだ時の事――。 初めて二人きりになった時の事――。 自分に向かって微笑むの彼の笑顔――。 しかし、思い出のフラッシュバックにはピキピキと嫌な音を立てて黒いヒビが入る。 目前にいる、ついさっきまであんなに思い焦がれた彼の、想像だにしなかった裏面を目の当たりにした時――、祥子の盲目の幻想に、拒絶と言う名の亀裂が入る。 やがて否応なしに祥子は認識する。 ――聡はあんなに愛していた姉を殺そうとした。自らの子を宿した姉を簡単に裏切って――。 想いが強ければ強いほど、純粋であればあるほど、崩れ去る時の勢いと反動は大きい。 もはや自分が何を成そうとしていたのか、祥子はそれすらも忘れて――。 「いやぁああああぁぁぁ――っ!!」 そして悲痛な絶叫がこだました。
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