片倉昌子は変わっている。 そう思ったのは、彼女が転入してきてすぐ、その日のことだった。 僕の隣の席に座ることとなった片倉昌子はイスに腰をかけるなり小声で僕に呟く様に言った。 「あの先生。老い先短いわね」 それが彼女の第一声だった。担当教員への死亡予告。最悪な第一印象だった。 とにかく、片倉昌子は妙に変わっており、その異様な性格は彼女のせっかくの美貌も無価値なものにするほどだった。 パソコンを使用した授業の時だ。彼女は勝手にネットを繋ぎ、どうどうと自殺サイトを巡っていたことがあった。それに対し担当教員高石先生が『授業を放棄して何をやっている』と、当たり前な説教をすると、片倉昌子は表情を一切変えることなく、淡々と言った。 「あなたに必要かと思って。このサイト。参考にしたら?」 その場にいる同級生達の呆気にとられた視線は、異常な発言をした一人の女子高生へそそがれた。高石先生が慌てた様子でパソコン室を後する。そのときの高石先生の化け物を見るような片倉昌子への視線を、僕は忘れることがない。 片倉昌子が一瞬、無邪気に微笑んだのを僕は見逃さなかった。
休み時間。僕は隣で読書する女子に尋ねる。 「どういう意味なの?さっきの先生に言ったやつ」 片倉昌子は視線を僕にやり、口を開く。 「そのままの意味よ」 そう言い、読んでいた本へまた視線を戻す。 「皆、いつかは死ぬのよ。なのに馬鹿みたいに希望に満ち溢れちゃって。頭が悪いとしか言いようが無いわ。自分が永遠に生きていけるかとものと思っているのよ」 ――本当に、変わってる子だと思った。 高石先生が自殺をしたのは、それから1ヵ月後のことだった。 同級生達の片倉昌子への様々な噂はより大きくなり、校内中を飛び交った。いつかのパソコン室での彼女の言葉の真意が、皆強く気にする様になったのは言うまでもない。だが、そのことを直接彼女に問う度胸のある人間は皆無であった。 次の年。高校3年の春。片倉昌子が病で亡くなったことを、僕は知った。 『片倉さんは人の寿命が解るんだ。』 『自分の死も解っていたからあんな無気力な目をしていたんだ』
そんなことを冗談っぽくクラスの女子達が言っていたが、それが事実かどうかを確かめる術はもうない。 ただ、彼女が言った。『自分が永遠に生きていけるものと思っている』という発言には今となって共感できる。 人は死というものを理解していない。 故に希望を持つ。夢を持つ。 そう。馬鹿みたいに。
自分の死、人の死が、見える人間が、もし、いるならば。 きっと、片倉昌子のようになるのだろう。 ――ふと、そんなことを思った。
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