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face 作者:雪邑楓

第6回   5.家路1
あれから、ずっと考えてた。
俺の部屋にある顔の事、顔たちの過去、婆の事、俺の事……
俺は一体何をやってるんだろう?
誰にも見つからないように。
影のように。
透明人間のように。
ひっそりとこんな風に暮らし始めたのはいつからだった?
それすらも思い出せない。
だけど今、確かに俺はここに居る。
俺がこの世界に居る理由なんてあるんだろうか。

誰だっけ、人間一人一人に生まれてきた理由はあるんだって言ったの。
それなら何故俺なんかがこの世に生まれたんだ?
俺はあの時そいつに尋ね返したんだろうか。
それすらもがあやふやだ。

何もかもがあやふやな中、俺はポケットに仕込んだ鉄の塊に触れる。
物体だけが俺の心を安らかにしてくれる。
物体は俺を裏切らない、物体は俺が今ここに在るって教えてくれるから。
感触だけが俺の存在を確かなものにしてくれている。
もし、もしも・・・感触が、最後の頼みの感触すら俺の元から去ってしまったら、そうしたら俺はどうなるんだろう……
全てを奪われたヒトはどうなるのだろうか。

仕事の帰り道、いつも俺は不安になる。 今俺に与えられているものは今だ俺の手の中にあるのか、何か気づかぬうちに消え去ってはいないだろうか。
不安で不安でしょうがない夜もある。 そんな夜、俺は静かに外に出る。 いつものように、気配を消して。
仕事はしない。 タダでやってやるほどボランティア精神には生憎恵まれていない。
だから仕事以外で出かけるときはいつも手ぶらだ。 本当にぶらぶらと意味も無く歩く。
そのうち嫌な事だって嬉しかった事だって忘れてしまうんだ。 それが俺のいいところであり悪いところでもある。
今夜もまた意味も無く出歩くことになるのだろうか。
帰る道すがらそんなことを思う。 帰り道に全て忘れ去れたらいいのに。
だけど、思うように行かないのが人生で。
大抵こういうときはしっかりとした記憶が俺について回るんだ。

部屋にある大量の顔たちは今頃何を思っているんだろう。 ふと顔たちを思い浮かべた。
気味が悪いと言えば悪いが、今の俺にとっては唯一の話し相手でもある。
そういえば婆以外の人間としばらく言葉を交わしていない。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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