「悪いのは・・決まってるじゃない。 あいつよ」 突然口を挟んできたのは少年の斜め上に居た少女の顔。 可愛らしい容貌にそぐわぬきつい言葉。 そしてやはり俺を憎しみの眼差しで睨み付けてきた。
「・・本当にそうかの?」 婆は何気なく問う。 「え?」 「本当にこの若いのが全て悪いのか? 何もかもがこやつの所為なのか?」 婆はちら、と少女の方を見る。 「え・・・」 困り果てた少女を見やり、婆は優しげな表情を浮かべ、小さなため息をついた。 「いつの時代だってそうだ。 みんな被害者意識を持つんだ。 自分は悪くない、自分は被害者だ、かわいそうなんだ、ってね。 だが、本当にそうか? 自分は本当に悪いことを一つもしていないのに被害を被ったのか? 私にはどうしてもそうは思えない」 一息ついた婆は俺の顔をまじまじと見つめてきた。 「お前さん、この子はな・・」 少女を見上げながら婆は愛おしそうに目を細めた。 「自分で死を選んだんじゃ。 それなのに、もうそんなことは忘れておる。 だが、それは責めてはならん。この子の責任じゃあないからね」
「なぁ、婆。 ここに居る奴らは・・・みんな、俺の知り合いか?」 ずっと気になっていた問いだった。 見覚えも無いのにこいつらは皆俺を憎んでいる。 見覚えも無いやつに憎まれる・・・俺にとってそれは日常茶飯事ではあるがあまりいい気はしない。 「いや、違う」 婆は真っ向から否定した。 「だがな、この中にはお前の知り合いもいるだろう。 思い違いをしたやつも、お前とは知り合いじゃないがお前に関係したやつもいる。 いろいろだよ、若いの」 関係する? やはり何も思い出せない。
そろそろ仕事の時間が迫っていた。 毎日毎日、俺は時間に追われている。 仕事と仕事の合間を縫って、ほんの少しでも時間があれば俺はここへ、自分の巣へと帰ってくる。 それは或いは帰巣本能かもしれない。 また或いはこれは・・・懺悔なのかもしれない。 俺が、今ここで生きていることへの。
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