「ヒントって、何をくれるんだ?」 俺は尋ねた。 さっきから婆の顔をどこで見たのか思い出そうとしているのだが、一向に思い出せない。 「若いの、そりゃだめさ」 婆は半ば呆れたような顔をする。 「何がだめなんだ?」 俺はイラつきながら尋ねた。 「思い出そうとするからだめなんだ。 物事ってぇのはね、順序だてて考えないといけないのさ」 婆はあくまで優しく続ける。 「思い出せるように、少しずつ色んな話をしてあげようね。 若いの、そう焦らなくても平気さ。 お前さんにはまだまだ先がある」 早速、何か教えてあげようね、と婆はぼそぼそと話し始めた。
ほれ、そこを見てごらん 婆が言う方を振り返ってみると、泣き顔の少年がいた。 「あいつはな、大好きなアイドルのコンサートに行く最中に死んだんだ。 かわいそうになぁ・・・ いつまでもくよくよと泣いているんだ」 婆はそういって小さくため息をついた。 「何故死んだ?」 俺は少年の顔を見ながら問うた。 その瞬間、少年の泣き顔は俺への嫌悪感、そして憎しみを顕にしたとてつもない形相へと変化した。 「お前さん、なぁんも覚えておらんのか・・・ つくづく、幸せなヤツじゃのぅ」 婆はさも面白そうに笑う。 覚えている? この少年は、俺に何か関係しているのか? どう考えてみてもどうしても彼の事を思い出せなかった・・・ 「しょうがないヤツだのぅ、お前さんは。 これこれ、もうおやめ」 俺をずっと睨み付けていた少年に向かって婆は優しく諭す。 婆の制止を受けた少年はふいに表情をなくし、虚ろな瞳で焦点の合わぬ目をゆらり動かした。 「僕は悪くない・・・ なんにも悪いことしてない。 それなのに、どうして・・どうして・・・」 少年はそれだけ呟いてまた涙を目に浮かべた悲しい顔をする。
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