■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

face 作者:雪邑楓

第3回   2.少年1
「ヒントって、何をくれるんだ?」
俺は尋ねた。
さっきから婆の顔をどこで見たのか思い出そうとしているのだが、一向に思い出せない。
「若いの、そりゃだめさ」
婆は半ば呆れたような顔をする。
「何がだめなんだ?」
俺はイラつきながら尋ねた。
「思い出そうとするからだめなんだ。
 物事ってぇのはね、順序だてて考えないといけないのさ」
婆はあくまで優しく続ける。
「思い出せるように、少しずつ色んな話をしてあげようね。
 若いの、そう焦らなくても平気さ。
 お前さんにはまだまだ先がある」
早速、何か教えてあげようね、と婆はぼそぼそと話し始めた。

ほれ、そこを見てごらん
婆が言う方を振り返ってみると、泣き顔の少年がいた。
「あいつはな、大好きなアイドルのコンサートに行く最中に死んだんだ。
 かわいそうになぁ・・・
 いつまでもくよくよと泣いているんだ」
婆はそういって小さくため息をついた。
「何故死んだ?」
俺は少年の顔を見ながら問うた。
その瞬間、少年の泣き顔は俺への嫌悪感、そして憎しみを顕にしたとてつもない形相へと変化した。
「お前さん、なぁんも覚えておらんのか・・・
 つくづく、幸せなヤツじゃのぅ」
婆はさも面白そうに笑う。
覚えている?
この少年は、俺に何か関係しているのか?
どう考えてみてもどうしても彼の事を思い出せなかった・・・
「しょうがないヤツだのぅ、お前さんは。
 これこれ、もうおやめ」
俺をずっと睨み付けていた少年に向かって婆は優しく諭す。
婆の制止を受けた少年はふいに表情をなくし、虚ろな瞳で焦点の合わぬ目をゆらり動かした。
「僕は悪くない・・・
 なんにも悪いことしてない。
 それなのに、どうして・・どうして・・・」
少年はそれだけ呟いてまた涙を目に浮かべた悲しい顔をする。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections