俺の部屋には顔が数え切れぬほどある。 顔、顔、顔・・ それらは老若男女関係なく、日増しに増えてゆく。 そしてそれら全部が俺を見つめるのだ。 非難、侮辱、哄笑、嘲笑・・・ ありとあらゆる表情が、だがどれ一つとして善意のものではない顔が、そこらじゅういたるところにある。
いつからだろう?彼らが現れたのは。 いつから? それは分からない。 何度思い返しても、気がつけばそこに彼らは居たのだから。 だが、彼らは皆違う顔を持ち、少しずつその数を増やしているのだ。
無限にある顔、顔、顔・・ 俺はその顔一つ一つには名前をつけたりはしない。 だが、ただ一つだけ、たった一つの顔だけには名前をつけた。 名前といっても、愛称といったほうがいいくらいの他愛もないものだ。 婆、と俺はそいつを呼ぶ。 勿論、話しかけなどはしない。 呼ぶと言っても、心の中で存在を確かめるだけだ。 遣る瀬無い毎日を過ごして行く中で、いつの間にか仕事を終え、部屋に帰り、婆の顔を見つけるのが癖になってきた。 ちら、と目をやり一瞬だけ婆と目を合わす。 それだけだ。
それなのに・・・今日はどうしたと言うのだろう? 俺は、婆に声をかけたのだ。 何故? ・・・寂しかったのかもしれない。 ・・・悲しかったのかもしれない。 理由は分からない。
「なぁ、婆・・・どうしてお前たちはここに居るんだ?」 婆と呼ばれた顔は答える。 「知りたいかい?若いの」
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