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face 作者:雪邑楓

第1回   序章
俺の部屋には顔が数え切れぬほどある。
顔、顔、顔・・
それらは老若男女関係なく、日増しに増えてゆく。
そしてそれら全部が俺を見つめるのだ。
非難、侮辱、哄笑、嘲笑・・・
ありとあらゆる表情が、だがどれ一つとして善意のものではない顔が、そこらじゅういたるところにある。

いつからだろう?彼らが現れたのは。
いつから?
それは分からない。
何度思い返しても、気がつけばそこに彼らは居たのだから。
だが、彼らは皆違う顔を持ち、少しずつその数を増やしているのだ。

無限にある顔、顔、顔・・
俺はその顔一つ一つには名前をつけたりはしない。
だが、ただ一つだけ、たった一つの顔だけには名前をつけた。
名前といっても、愛称といったほうがいいくらいの他愛もないものだ。
婆、と俺はそいつを呼ぶ。
勿論、話しかけなどはしない。
呼ぶと言っても、心の中で存在を確かめるだけだ。
遣る瀬無い毎日を過ごして行く中で、いつの間にか仕事を終え、部屋に帰り、婆の顔を見つけるのが癖になってきた。
ちら、と目をやり一瞬だけ婆と目を合わす。
それだけだ。

それなのに・・・今日はどうしたと言うのだろう?
俺は、婆に声をかけたのだ。
何故?
・・・寂しかったのかもしれない。
・・・悲しかったのかもしれない。
理由は分からない。

「なぁ、婆・・・どうしてお前たちはここに居るんだ?」
婆と呼ばれた顔は答える。
「知りたいかい?若いの」

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