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Emotion 作者:ジュンピヨ

第1回   Emotion1 プロローグ


ゆらの白目は生まれつき青い。小学校の頃はよくそれでいじめられたものだ。まぁ、深刻な「いじめ」ではなく男子がからかう程度だととってほしい。
中学生になり他の学校と合わさり1年生。
やっぱりからかわれた。周りから見てもやっぱりこの「目」は目立つらしい。ゆらは気にする性格だったので一時期学校を休んでしまった。

保健室で心の静養をとっていた時、担任の先生が言った言葉が今も私を勇気付けている。

「ゆらの目はすごくきれいだよ。先生は好きだけどな」

ゆらは高校入学に大きく人生の転機を迎えた。動き出す出来事はもっとずっと前からあった。
ずっと、ずっと前。
でも高校から大きく変わった。
そして現在。ゆら22歳。

「あれから、今までこれでよかったのかな・・・」
ふとそんな事を考え、路頭に迷う。
今まで歩んできた道を後悔さえする。
だけど、時間は巻き戻らないし、やり直しもきかない。
ゆらは強くはない。
みんな誰かに支えられて強くなる。
ゆらもそんな周りの誰かと同じだ。一般人だ。

でも、どこかで自分は特別だと区別したい。
だから、今まで特別なゆらを特別に扱ってくれる存在が欲しかった。
ゆらを理解し、共に生き、愛してくれる人を。
その人の為ならばゆらは何でもしよう。尽くそう。

ゆらを理解してくれる人はどこだろう・・・・と。

これはゆらの今までの人生を書いたもの。
まだ、22しか生きてないけどここでゆら自身、心の整理が必要なのだ。
「自分が自分であるために・・・」
ゆらが出した自分への答えはまだまだ出ていない。


「東京の警察から電話・・・」
兄はそう言い、祖父にかわった。
今日はいとこの一番上の姉の結婚式で、私と母と姉が出席。そこから帰宅した直後、玄関を開けると同時に電話が鳴り、留守をしていた兄が受話器をとっていた。
祖父は真剣な顔で頷きながら話し、電話を終えた。
「父ちゃんが死んだ。本人の身元確認の為に東京へ来て欲しいと」
みんなの顔が固まった。
私は、父が亡くなった事実より先に、お父さん今まで生きていたんだ・・・という事を最初に思った。
まさか自分の誕生日の翌日が父の命日になるなんて思ってもみなかったが。

12月の初め、あたりは雪の寒さが本格化していた。結婚式から帰ってきたゆら達は心をあったかくして帰ってきたのに、この電話で一気に凍りついたみたいになった。


父はゆらが小学校5年の時に蒸発。最初の2年は連絡をよこしていたが、その後全く連絡はこなくなった。父の行方を捜したが、蒸発となると難しく、見つからないまま今日まで過ごした。
祖父は東京へ連れて行く家族を兄と自分とゆらで行く事を決めた。
ゆらはお父さん子だった。
母は父をあまりよく思っていないこともあったが、祖父から留守を任された。


東京で暮らしている父の兄弟とおち合い、ゆらたちはタクシーに乗った。
観光以外で行く東京はこんなに殺伐としたものなのか。
平気で信号無視をする運転手。譲り合いと言う言葉知らないのかな・・
無理やり右折して対向車にぶつかると思って、ゆらはとっさに目をつぶった。

ゆらが生きたきた中で初めて家族が死んだ。人の死んだ顔を見るのが初めてだった。
警察の冷暗所はひんやりと冷たかった。父の顔を見せる前に、
「顔だけしかお見せできません。首から下は無理です」
と強く念を押された。
大きく見開いた目とあんぐり開けた口。飢えた顔で亡くなっていた。
父の死因は栄養失調だった。半分ミイラ状態だった・・
あの顔は一生忘れられない。

みんなが一斉に声を上げて泣いた。父の蒸発後「親父の話はするな」とゆらをはたいたことがある兄が大泣きしていた。兄のそんなに泣いた姿は初めてだった。

ゆらは父の一番下の弟の貴雄(たかお)おじさんの手をぎゅっと握ったまま泣いた。力が抜けるのを必死にこらえていた。

「仏様になった・・・お前は誰にも責められはしないよ・・
 もう誰もお前を責めない・・
 安心して休めよ・・・大丈夫だ」
祖父は口元をゆがませて、父の頭を撫でながらそう言った。
みんなも頷きながら、
「そうだ、そうだ」
「仏さんになったのを誰が責められる」
「これからは仏様だ」
「よかったなぁ・・・」
と父に優しい言葉をかけていた。
そうだね。お父さん。
やっと家へ帰ってこれるよ。よかったよ。
仏様になって安らかに眠れるよ。安心して。

父の最期の所持品は1円や10円などの僅かな小銭とゆらの小さい頃の写真だったと祖父から聞いた。
ゆらは嬉しかった。父が私を気にかけていたんだと涙した。

知らぬ土地の火葬場でお骨にし、3人は疲れた顔で新幹線に乗って帰った。
平日だったが夕方のせいで混んでいて座る場所がない。
祖父をずっと立たせたままが心苦しかった。
ようやく座れたのは降りる駅の2つ前だった。

「お疲れ様・・・疲れたろう・・・」
迎えに来た母が優しく疲れた顔で言った。
留守をしていた間、母はどんな事を考えていたのだろうか。

その2ヵ月後、後を追うように祖母が他界。
みとった私と兄はその死に顔が父の時と全く同じ事に顔を見合わせて驚いた。
寝たきりの祖母は父が亡くなった事は知らされていなかったはずなのに、死ぬ何日か前に父の名前を呼んで泣いてらしい。祖母の命日も父と同じで8がつく日だった・・・・


葬式は表向きは祖母の葬式で、父も一緒に弔ってもらった。
別々にやらなかったのは父が蒸発してから周りに悪影響を与えたからだと思う。
葬式の最中に父の悪口が耳に入ってくるのが嫌だった。
自宅で葬式をした。ひどく疲れた。
そういえば、母が泣いたのはあまり見なかった気がする・・・

父の死、祖母の死はゆらにとって衝撃的な、心の中の何かを変えた。


父が蒸発した5年間はいいものじゃなかった。正直いい子でいるのは嫌だった。
・・・でも母が女手一人でゆらを育てていたんだ。ゆらの上の兄弟はみんな成人していたし、ゆらだけが学生だった。病弱だったし、そんなこともあってゆらは何かと手がかかっていた。だから母をこれ以上困らせたくはなかった。母の言う事は何でも聞いていた。

ゆらは16歳、高校1年で普通高校を中退し、通信制の高校に入学した。
この話から運命は大きく動き出す。
その前も色んな事はあった。
今回はゆらが変わるきっかけになった出来事を書いた。


16の誕生日に買った携帯電話。

ナオヤがゆらを開放した。
初めてだらけの体験を彼とした。

                                                                      プロローグ END

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Novel Editor by BS CGI Rental
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