***********晴サイド****
家に帰ってきてから七緒が自分の部屋から出てこない。 部屋に閉じこもるのは、自分の意見が通らなかった時の七緒の癖みたいなものだった。 そうなった時、近づけるのは俺だけで、七緒を説得するのが俺の役目になっていた。
「七緒。晩飯の用意できてるぞ。」 「いらない。」 「怒ってんの?」 「怒ってないよ。」 「じゃあ出てこいって。」 「いやだ。ほっといて。」 「・・・わかったよ。好きにしろ。」
それから何時間経っただろうか。 みんなが寝静まった頃に七緒の部屋のドアが開く音がした。 風呂に入りに行ったんだろう。
1時間2時間経っても一向に部屋に戻ってくる気配が無い事に気づいた。
七緒・・・・・・?
もしやと思い、風呂場に行って覗いてみると、湯船につかったままバスタブの端にぐったりともたれている七緒の姿。
「七緒っ!!!!!!」
急いで風呂場から引きずり出し、冷たいシャワーを頭に掛ける。
その冷たさで意識も戻ったようだ。
「晴・・・・・。」 「大丈夫か?風呂で寝るなって何回も言っただろ!」 「ごめん。」 「大丈夫・・・か・・・・・?」 「晴・・・・・ごめんね。」 「とりあえずパジャマ着て部屋戻ろう。このままじゃ風邪ひくから。」 「ごめんね、晴。」
これじゃどっちが兄貴か分からないな・・・。 なんて思いながら、ふらつく足取りの七緒を抱えて俺の部屋まで連れて行った。
ベッドに座らせて、俺の飲みかけのホットレモンのカップを持たせる。
すると七緒は俯いたまま俺の肩に頭をコトンと置くと、小さく体を振るわせ始めた。
「泣いてんの?」 「・・・・・ごめんね。」 「七緒?」 「僕、色々考えたんだ。なんで急に晴が一緒に帰りたくなくなったのか。」 「帰りたくなくなったんじゃなくて、他に帰りたい人が・・・・」 「彼女なんて嘘だろ。ず〜〜〜っと僕が一緒に居て彼女なんか作る隙は無かったはずだもん。」 「・・・・バレてたんだ?」 「嘘ついてまで僕と帰りたくなかった理由ってなんだろうって。」 「で、答えは?」 「嫌いになった・・・んだろ?頼りないし、甘えてばっかだし・・・。」 「そんな理由だったらとっくの昔に言ってる。」 「違うの?じゃあ・・・なに?僕、晴のこと何にも分かってあげられてないんだ。」 「言わない。言ったら七緒に嫌われるから。」 「?僕は晴のことを嫌いになんかなったりしないよ。だって・・・兄弟じゃん。」 「・・・・・そうだな、兄弟だもんな。」 「僕、ずっと晴みたいになりたいって思ってた。男らしくて頼れる男になりたいって。」 「(笑) そんなの俺がやだよ。七緒は今のままがいい。」 「いつか・・・晴に愛想つかされちゃうんじゃないかって思って。」 「兄弟だろ。そんなことは絶対無い。ずっと七緒のこと大好きだから、心配すんな。」
少し顔を上げた七緒を覗き込むように、優しく、触れるだけの口付けをした。
「は・・・・・はる?」 「心配すんな、な?」 「ぁ・・・・・・・うん。」
俺のこの気持ちが七緒に届かなくてもいい。 これからもずっと兄弟として一緒に居られるなら、届かなくていい。
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