とある日の帰り道。 家路に向かう私の前に、少し寂しそうに歩いている彼がいた。 その背中はとっても寂しそう。 私は分かってしまった。 彼は失恋してしまったんだと。 彼は前からナナコさんを見ていたのを、私は知っている。 ナナコさんは知的な女性で、彼とは正反対だと私は思った。 それでも彼は告白したのだ。 そして振られた。 恋とはそんなものだ。 どんなに短くても、どんなに長くても、いつかは終わってしまう。 たとえ恋が愛になり、愛が二人を結びつけ結婚しても、最後は終わってしまう。 永遠は・・・存在しない。 それは分かっているけれど、人は恋をする。
前を寂しそうに歩く彼の後ろを、私は歩いていく。 ストーカーのように見えるかもしれないが、彼は私の幼なじみなので単に道が同じなのだ。 道が明るい街並みから暗く、雑居ビルが多くなり始めた時にゴロゴロと空から鳴った。 私は耳を疑った。 彼も耳を疑ったようで、足を止める。 その次の瞬間、大雨が降ってきた。 「嘘!」 私は思わず叫んでしまった。 家まではまだ五分くらいかかる。 いきなり夕立なんて最悪だ。 私は走ろうと思った。 正直五十メートル走のタイムは九秒台だ。 でもこれ以上濡れたくはない。 そう思い走ろうとした時、いきなり黒い傘が差し出された。 「・・・へ?」 私は間抜けな声を上げ、濡れながら上をむく。 濡れながら傘を渡してくれたのは彼だった。 何故私が後ろにいたことに気づいたのだろう。 私は少し恥ずかしくなった。 「傘、差しな」 彼はそう言い、私に無理矢理傘を持たせた。 私は呆然と彼を見る。 彼は雨に打たれることよりもきっと辛い思いを抱いているだろう。 なのにどうして私に優しくしてくれるのだろう。 辛くないはずがないのに。
彼が走って帰ろうとするのを私は引きとめた。 なので今、黒い傘には私と彼が入っている。 会話はなにもしていない。 ただ沈黙が保たれている。 でも、なにも話す必要もないんじゃないかと思った。 夕立は今だ激しく降っている。 私たちの家はもうすぐ着く。
もうすこし・・・・このままがいい。
どこかでそう思う、ちょっと変わった自分がいた。
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