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Who is she 作者:InVillage

第5回   2日目 A
―――矢野崎公園

僕たちは昨日と同じ様にベンチに座っていた。

「悠介さん、花火は好きですか?」

「昔は好きでしたよ。でも今は別に興味ないですね。しいて言えば、花火大会の時にかき氷、ラムネ、焼そばが売ってるのが嬉しいくらいですかね。と言っても、ここ数年行ってませんけど」

「そうですか…」

しまった。彼女を少しガッカリさせてしまったようだ。というか、彼女も僕が花火に興味ない事くらい予想出来たのだと思うが…

「サヤカさんは好きなんですか?花火」

「大好きですね。子供の頃、家族とやった線香花火も好きですし、花火大会に行って、公園でシートひいて見るのも好きです」

「サヤカさんはきっと浴衣似合うんだろうな」

「え?」

「そんな気がします」

「うーん。悠介さんに言われてもなぁ」

「はは…」

「冗談ですよ」

冗談か…僕にとっては結構ヘビージョークだ…

「夏休みになったら一緒に私と行きませんか?」

「花火ですか?」

「そうです」

「たぶん、僕は退屈してしまうと思いますよ」

「焼そばでもかき氷でも何でもオゴりますよ」

経済面で言ったら、僕の方が(僕の家の方が)彼女より何十倍も何百倍も上なのだが…

「いいですよ。行きましょう」

「約束ですからね」

「約束します」

花火…懐かしい響きだった

花火大会…浴衣…か…

僕はふと彼女に質問をしてみた。

「あの、僕は浴衣どうですかね?」

突然、僕はそう言った。

「はい?」

「僕は浴衣似合いますかね?僕、自分がどんな物が似合うとか全然わかんないから…」

なぜか急に聞きたくなって仕方なくなったのだ。

彼女は少し黙ってから口を開いた。

「…うん。似合いますよ。きっと」

「本当ですか?」

「はい。今、頭の中でイメージしました。私たち2人とも浴衣似合います。大丈夫です」

彼女は妙に自信を持ってそう言った。

「悠介さん、凄く優しい目をしていて日本人らしいですよ」

たぶん外人のイメージだと日本人は気弱に見られていると思うのだが…

しかし、それでも僕は彼女の誉め言葉に本気で嬉しくなってしまった。

「サヤカさん優しいですね。僕こんなに恥ずかしい事言われたのたぶん初めてですよ?」

僕はなんとか平常心を保って、前に彼女が言った言葉をそのまま言い返してやった。

「それ、昨日の仕返しですか?そんな事言われても私、ちっとも恥ずかしくないですからね」

彼女はいつもの調子でクスクスと笑いながら言う。やはり彼女は強い…彼女の様な女性を小悪魔と言うのだろうか。

「でも本当に私、悠介さん好きですよ。顔もタイプだし…何より…誰に対しても優しい所」

僕の顔はヤカンの様に熱くなってしまった。

「悠介さん顔赤いですよ。私の勝ちですね」

僕は彼女との誉め合いに敗れてしまった。しかし気分は悪くない。





―――僕らは腕を組みながら家へ向かって歩く

「サヤカさんのご両親はどんな方なんですか?」

「いたって普通ですよ。お父さんは普通のサラリーマン、お母さんは午前中はスーパーでパート。私、一人っ子なんで、それほど生活にも困りませんし。今は私一人暮らしですけどね」

彼女はそう説明した後「悠介さんは?」と聞いた。

「ウチは知っての通り、親父はほとんど家にいないし、母親は僕が小学生の時に事故で亡くなってますから、お手伝いさんが家族みたいなものですね」

彼女は反射的に質問を返したからだろう。僕の母親が他界してるのを忘れていたようだ。

「あ…すいません…私、お母様の事、つい忘れてしまって…こんな事聞いてしまって…」

さすがに彼女もこの時ばかりは小悪魔の様な笑いは無かった。

「気にしてませんよ。もう何年も前の事ですから」

「じゃあ、私も家族として認められるように頑張ります」

彼女は切り替えが早い。





「じゃあ、私はここで」

家の門に到着すると、彼女はそう言った。

「あ、はい。帰り道気を付けてくださいね」

「悠介さんの方こそ」

「僕は門から玄関まで歩くだけですけど…」

「いえ。園山家のお庭は広いですから」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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