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Who is she 作者:InVillage

第3回   1日目 A
「そう言えば、悠介さん、朝ご飯は食べてないんですか?」

「ああ…さっき、起きたばっかりで…僕、起きてすぐは食べられない体質なんですよね。食事は夕方5時と夜11時の2回だけなんですよ」

「健康によくないですよ。ちゃんと毎日3食、食べないと」

「わかってはいるんですけどねえ」

「ダメですよ」

「はい…努力します…」

どうも彼女に押され気味だが、不思議と気分は悪くない。

「あの…これ、いつも僕が通ってるコースで行くんですか?」

「別に何でも構いませんよ。私はついていくだけですから」

ついていくと言っても腕を組んでると、勝手に動き回れる感じじゃない。

と言っても、行くのは僕がいつも歩くコースだ。

「じゃあ、矢野崎公園に行きましょう。いつも行っている僕のお気に入りの場所なんですよ」

「はい。わかりました」





矢野崎公園に着くと、ベンチで休むことにした。

僕がベンチに座ると、彼女は僕にまわしていた腕を解いてしまったので残念だった。それでも、スペースの空いているベンチで彼女は僕にピッタリとくっついて座った。

ベンチに座って一息つくと公園に春の香りを感じた。

「なんで親父は急に外出だけの為のお手伝いさんを雇ったんですかね?」

「え?」

「僕が誘拐されないようにサヤカさんを雇ったんですかね?」

「それ冗談ですか?」

「はい…」

彼女には僕の軽い冗談はどうでも良かったようだ。

「いや、親父がサヤカさんを僕につけたか理由は、まあ、わかるんですよ。けど、なんで今まで何にもしなかったのに、今になってお手伝いさんをつけたのかがわからないんです」

僕がそういうと彼女から以外な反応が返ってきた。

「あの…もしかして…私…うっとうしいですか?」

「え?」

「もし、私がいない方が良ければ正直に言ってください」

僕は驚いた。そんな返答が返ってくるとは思わなかったからだ。

「いや、そんなつもりじゃないですよ。僕は家にいても大竹のオバサンとかしか喋る相手がいないんです。だからサヤカさんみたいな人が一緒にいてくれて正直、今すごく嬉しいですよ」

言った後に自分が恥ずかしい事を淡々と語っているのに気が付いて顔が熱くなった。

「悠介さん優しいですね。こんな恥ずかしい事言われたの初めてですよ」

彼女はまたクスクスと笑ってそう言った。まさに僕が考えてた事と同じ事を言われてしまった。元気づけるつもりが逆にからかわれてしまった。だが、彼女はやはり優しかった。

「ああ…人にこんな事言わせといて…からかわないでくださいよ…」

「ごめんなさい。冗談ですよ」

そう言う彼女だが、まだからかわれてる気がする…





僕らはその後、家に向かって再び歩き始めた。

僕がベンチから立つと彼女が再び腕を回してきたので安心した。

正直、ベンチに座ってる間、もう腕を組んで貰えないのではないかと軽い絶望感を抱いていたのだ。





家の門の所に着くと彼女は「じゃあ、私はここで」と言った。

「え?ここまでなんですか?」

「はい。私は悠介さんの外出についていくだけですから」

「ああ…そうでしたね」

「明日も来ますから」

「明日もお願いします」

彼女はまたクスクスと笑って去っていった。





家に入って、玄関で靴を脱いでいると、大竹のオバサンがどこからかやって来て「おかえりなさい」と声を掛けてきた。

僕は今まで女性の話なんてした事がなかったので悩んだのだが、気分が良かったのでボソッと呟く様に言った。

「サヤカさんと色々と話しましたけど、良い人でしたよ」

僕がそう呟くと大竹のオバサンが「恋人ですか?」と言った。

「恋人ですか?」その言葉に少し疑問を持ったが「違いますよ」とだけ返しておいた。



その夜、僕は10時に布団に入った。いつもより早めの時刻だ。明日はちょっと早く起きてみようと思ったからだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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