■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

Who is she 作者:InVillage

第12回   5日目の告白
しばらく沈黙が続くと彼女は口を開いた。

「もともと…私も…この公園で散歩するのが日課だったんです」

彼女はゆっくりと話し始めた。

「そこでベンチに座って休んでいる悠介さんをいつも見ていました。気になっていたんです。それで、ある日勇気を出して話し掛けたんです。覚えてませんか?」

「そういえば…覚えてます…」

1ヵ月くらい前だったろうか。僕の頭にその時の記憶が蘇ってきた。

「この公園好きなんですか?って私そう聞いたんですよ」

「覚えてます。いきなり話し掛けられたので驚きました」

「それでも、優しく返してくれたのが嬉しかったんです。」

「色々と話しましたね」

「他愛もない話でしたけど、私、話してみてもっと悠介さんが好きになりました」

僕は何も言わなかった。

「それで、ある日、悠介さんの後をつけたんです。そして家を見つけました」

「全く、気付きませんでしたよ」

「ええ」





―――矢野崎公園に春風が吹き始めた

「僕は昨日、なぜサヤカさんが部屋から急に消えることが出来たのか、消えてしまったのか考えました」

「どうやったかわかりましたか?」

「サヤカさんは幽霊だった…」

「また、冗談を」

「いえ、最初は本当にそう思ったくらいです」

彼女は黙っている。

「サヤカさんは僕の部屋にいなかった。というか僕の部屋に入ったことは一度もない」

「はい。そうです」

「僕が盲目なのを利用したんですね?」

「はい」





「私、その手のプロに依頼して悠介さんの部屋の入り口の所に小型カメラとマイクをつけました」

僕の予想したとおりだった。

「それを機械を使って電波を受信していたんですね」

「最初は見てるだけのつもりでした。でも、悠介さんにもっと近づきたいと思ったんです」

「それで僕の外出についてくるだけのお手伝いさんというのを考えたんですね?」

「はい。それで今度はプロにスピーカーをつけるように依頼しました。悠介さんは目が見えないから、話し掛けるだけで私が部屋にいると思い込ませる事が出来るんじゃないかと考えたんです」

「サヤカさんの作戦どおり、僕は部屋にサヤカさんがいると思い込んでしまった」

「はい」

「でも小型のスピーカーにしては本当にそこに人がいると思うくらい良い音質でしたよ」

「いえ、小型のスピーカーじゃないんです」

「え?」

「前に悠介さん自分で言ったの覚えてますか?部屋の入り口の脇に大きなオーディオがあるって」

「あっ、そういう事か」

僕は隙を突かれたような気分になった。

「そのオーディオのスピーカーに繋いだんです。とても高価なやつだから音質が良かったんですよ」

「そこまでは気付かなかったな。スピーカーが固定されているからサヤカさんはいつも入り口の所に立っているように感じたわけですね」

「はい。悠介さんの部屋の中から話し掛ければ本物のお手伝いさんだと信用されると思ったんです。」

僕は現実に信用していた。

「それにお父様がほとんど家にいないのも知っていたので、お父様に雇われたと言えば大丈夫だと思ったんです。単純な考えですよね」

「後は僕を起こしたら、門で待っていると言えば終わりですね」

「ええ。でも、こんな事すぐにバレるなんてわかってたんです…それでも…悠介さんのすぐ隣に…少しでも長く…いられる理由が欲しかったから…」

彼女は鼻をすすりながら途切れ途切れに言った。

「考えたら、こんな簡単な事だったんですね」

「騙して…ごめんなさい…」

彼女の言葉に覇気はない。

「僕が目が見えないのを利用されていたとはね」

「その…悠介さんの目が見えないのを利用したのは本当に悪いと思っています。ごめんなさい…」

僕は何も言わなかった。

彼女はずっと「ごめんなさい」と謝り続けていた。僕は目が見えないが、彼女が大粒の涙を流しているのがわかった。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections