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Governor's O&D 〜“さと”とは、“くに”とは〜 作者:本城右京

第2回   南国動乱(後編)
〔前編からの続き…〕

 翌日、深江は高知に向かっていて、すでに到着していなければならないのだが、まだ着いていなかった。残酷にも時は過ぎ、午後3時をさしていく。その時間は市長の定例記者会見の時間にあたる…それはすなわち、岡村市政の終幕を意味する。それを悟っていた記者たちがこぞって、市役所本庁舎へと駆け込んでくる。
「…本日をもって、辞表を市議会議長宛に提出いたしました。その旨、ご報告いたします」
 ついに岡村は辞意を表明したことになる…多くのフラッシュがたかれる、記者会見場である。漁野市の市制施行後の歴史において、初めて人気をまっとうできなかった市長となった岡村の無念さは如何ばかりか。その記者会見場にも、深江の姿はどこを探してもいなかった。午後4時を過ぎて、やっとの思いで深江は高知に入ることができた。
「号外で〜す!」
 地元新聞の号外がさっそく配られている…記者会見終了後、すぐさま対応したことで配ることが可能なのだ。
「…え?」
 遅かった…後悔しても、もうどうにもならない。一歩も二歩も出遅れた…深江は焦って、携帯電話を取り出した。
(デスク、出ないかなぁ…)
 その電話に、すぐさま清水が対応してくる。
「おう、どうよ?…岡村は」
「…辞める、とのことです」
 憔悴しきった表情で答える深江…しかも、片手に号外を見たまま。
「とのこと、ってお前…記者会見を見たんじゃねぇのかよ?」
「間に合いませんでした…」
「ったく、なにやってたんだよバカヤロウ!一歩も二歩も出遅れちまったぞ、まあいいけどな。ここから先は俺たちの得意分野だ…岡村敦規を徹底的に調べ上げろ。周囲のコネとか、寄ってきやがった野郎どもとか…ほかには黒幕とかよ。絶対に何かあるぜ、この辞任劇はよ。いいか、頼んだぞ…社主に頼んだ手前なんだからな」
 そう言って、慌しそうに電話を切った清水…ますます深江は焦ってしまう。
「それ以前に、高知支局は一体どこにあるのよォ〜〜〜〜〜!」

 時を同じくして、深江の側を通っていた1人の男がいた…漁野市議会議員、桑島庸介。最年少当選記録・新人最多得票記録を塗り替えての堂々たる初当選を果たした、漁野市議会の期待のホープである。深江の大声に、一瞬にして凍りついた桑島。
「…何?」
 桑島と深江の出会い、それはまさに最悪の形であった。お互いに
「誰だよ、こいつ」
という印象を与えるほかないものであったから。
「あんた、高知に来たの初めて?」
「え、ま、まあ…」
 事情を話せないまま、深江は黙って桑島のペースに流されるほかなかった。
「待ってろ、宿ねぇだろ。俺、車とってくるわ」
 そう言って、桑島は鍵を取り出してその場を去っていく。また、どうしようもない焦燥が深江を襲う。
(なんなのよ〜、あいつ〜)
 全くもって、無礼にも映りかねない桑島の態度…しかし、そうこうしているうちにあっという間のことだった。“ホンダ・クロスロード20X”で颯爽と桑島が現れる。
「…乗りなよ」
 何のためらいもなく、車に載せようとする桑島の態度に深江は半信半疑になるほかなかった。
「おい、いやらしいことなんて考えちゃいねぇよ。俺んちに案内する、っつってんの!」
 きつく言われ、言われるがままに車に乗り込むほかない深江であった。

 車中…西へ、さらに西へと車は進んでいく。沈黙を破ったのは、桑島である。
「あ、そういえばさ…あんた、高知支局がどうとか叫んでなかったっけ?」
「あ!は、はい…」
「もしかしてさ、どっかの新聞記者?」
「…はい」
「どこ?」
 そう言われると、偶然にも赤信号で停止中であるがゆえに深江は躊躇なく自らの名刺を桑島に渡す。
「…日本新聞?聞いたことねぇぞ」
 あっさり、桑島が答える。もしかすると、高知支局というのはどこにあるのかわからないままだというのか?
「あるとかないとか以前だろ…あんた1人、ってこと。あ、それとさ…その号外、岡村市長が辞めたとかだろ?わかるぜ、それであんたがそこの新聞の代表で高知に送り込まれた、ってわけだろ?」
 桑島の問答に、深江はひたすら頷くほかなかった。
「おそらくさ、岡村のこと調べても意味ねぇと思うぞ。あの人、あそこで言ったのは本当のことが多いと思う…言い振りがまさにそれだったしな」
「え?じゃあ、どうすれば…」
「どうするったって…あんた、市長が辞めるってことは次に何があるよ?」
「…選挙?」
「そう、市長選。そのことしか、ネタになるもんがねぇだろ?」
「岡村さんは出るんですか?」
「岡村が出るわけねぇだろ。出るとすれば、岡村の後継を名乗って出てくるヤツ。それと共産党系…まあ、二者択一ってことだな。こんなとこじゃ、変なのが出てくることはまずありえねぇしな」
「…変なの?」
「俗に言う“泡沫候補[ホウマツ]”、ってとこ。あんた、政治部の記者のくせしてそんなのも知らねぇの?」
 こんな問答を繰り返しているうち、車は桑島の事務所 兼 自宅に着いた。その先にある、桑島事務所の看板を見て深江はビックリした。
「い、漁野?」
「…ああ。漁野」
「…え?ウソッ!」
「嘘も何も、あんたのほっぺ抓ってやろうか?…漁野市議会議員、桑島庸介ってんだ。宜しく」
 桑島のあっけらかんとした態度に、ただただ深江は呆気に取られっぱなしだった。清水が言っていた、話題の地・漁野市…わけもわからず、場所も何も把握できていないまま、深江はあっさりと入ることができたのである。

「…なにボーッとしてんだよ。宿ねぇんだろ?…入れよ」
 桑島に促され、そのまま深江は大きな荷物を抱えて桑島の事務所へと入っていく。
「…1人だけなんですか?秘書さんとか…」
「いたって、煩わしいわ鬱陶しいわ…邪魔なだけだよ。他人[ヒト]に俺をPRさせられる、ってのがどうも苦手でな」
 あっさりと、淡々と答える桑島。呆気にとられるほか、深江はとるべき手段がなかった。
「それにさ、秘書って…高知市とか県ぐらいでなきゃ、一辺倒野郎の俺にゃそれ以前にそんな金ねぇよ」
 付け加える桑島…給与体系は、市議会との対立劇も多少あったのだが大幅に見直された。岡村市政の実績の1つである。
「あ、テナントなら漁野の駅前まで行かねぇと見つからない。あんた、しばらく漁野[ここ]に留まったほうが取材しやすいだろ?」
「…あ、そうですね」
 呆気にとられるほかない、相変わらずな深江の表情…桑島は、見ることもなく冷蔵庫を開けて、大きなペットボトルに入ったミネラルウォーターを豪快に飲み干している。
「荷物、邪魔だろ?…ここに置いてけよ。駅前まで連れてってやるからさ」
 桑島が鍵を取り出し、また事務所を出て車を取り出してきた。このまま居候は嫌だという深江の心理を見事に見透かしていた…桑島の頭内には、なにやら人の深層心理をいとも簡単に読み取れるものがあるのか、それとも単に深江が正直に顔へとその心理を見せてしまうだけなのか、ともかく桑島は市議会議員と呼ぶには得体の知れないものが宿っているオーラを感じる。

 桑島の事務所から車で行くこと5分…わずかなドライブで、市のセンター街である高知旅客鉄道(KR)・本線『漁野』駅前に着く。
 現況は全く異なり、センター街ではあるものの寂れているのは誰の目にも明らかで、市役所本庁舎の位置関係もあって現在は同線内にある一駅前の『新漁野』駅前のほうが栄えているのが、漁野市の抱えている産業空洞の現状である。いわば、2つの異種異風のセンター街を抱えて対立劇も煽らんとする状況を追認してきたに等しい岡村市政に反旗を抱かれても、何ら不思議のない内部対立である。
「ここの不動産屋なんてどうだ?…俺のアパートもここで決めたんだ」
 そう言われて、駅前商店街内にあって駅からもすぐに位置する不動産屋を指差した桑島についていく深江…アパートじゃなくて、テナントなんだってば。深江は文句の1つも言いたいのだが、なにせ漁野は全くわからないので仕方なく桑島の腰巾着の如くついていくのであった。
「お、いらっしゃい…桑島くんじゃないか。珍しいな…これ?」
 不動産屋の主が、小指を立てて桑島に話し掛ける。
「そんなんじゃありません!」
「怒った顔が可愛らしい〜、いじらしいっていうのかな?」
「…セクハラで訴えますよ」
 思わず顔をむくれさせる深江…勝手に見ず知らずに等しい初見の男を彼氏呼ばわりされて、黙っていられないのが本音だろう。
「悪い悪い。で、その彼女の宿だろ?…要件は」
「おやっさんもわかるねぇ。兼ねて、テナントも所望だってよ」
すかさず桑島が、主にざっくばらんに話し掛けた。アパート紹介時より、その仲はまるで父子関係のようなものである。
「…テナント?」
「この子、新聞記者なんだとよ。聞いたことねぇとこだけど、1人で取材しなきゃならねぇみてぇだぜ」
「…偉いねぇ。やっぱ、市長さんが辞めるってことを聞いて?」
「…だよな?」
 顔をすぐに深江へと向ける桑島…深江も、桑島に目線を合わせて頷く。
「偉い!…格安のテナントを紹介してあげるよ。で、どこの新聞なんだ?」
「日本新聞…」
 主の質問にすぐ答える深江…申し訳なさげな、ぼそぼそ声ではあるが。
「…え、清水耕輔のいるとこ?」
「デスクです…」
「清水耕輔?…あの若い、一匹狼みてぇな理詰め論客の?」
 桑島も思わず口を挟む。新聞の名は忘れていても、清水のインパクトが離れられないらしい。
「ああ、あの清水耕輔のねぇ…あの切れ味あるテレビ討論、忘れられねぇよな!」
「そうそう、忘れられねぇよな〜」
 清水の話題は、漁野でももちっきりになるほどの衝撃を与えていた…内心、深江には複雑なようで嬉しいことでもあるが。現に、日本新聞のエースであって屋台骨も同然の清水の現状をふまえると当然の評価ではあるが。
「あ、それはそうと…テナントだったよな?ここなんてどう?」
 主はさっそく、格安の物件をさっそく紹介してくれた。
「…すごい!…安ーい!」
「な!おっちゃん、サービスしちゃう!」
といって、家賃の欄をいきなりマジックペンで消して、金額を変えた。
「おいおい、鼻の下が伸びまくってるぞ」
「いいじゃねぇかよ。ま、これでどう?…住居もばっちり!」
 所望の物件を一発で探し当てる、さすがは脱サラして漁野市内の不動産を扱って30年のベテランである。深江は、迷うことなくその物件に一発サインを済ませる。
「おい、あんたもいきなりサインかよ!」
 桑島が、今度は呆気にとられてしまい、思わず突っ込む。
「思い立ったら吉日、っていうじゃないですか。時間ありませんから」
「時間ない、ってあんた…」
「桑島さん、事務所に戻りましょ。荷物をこっちに移しますから」
「…おい待てよ、あんた運転できねぇだろ!」
 嫌々そうに、桑島は鍵を取り出して鳴らしながら車へと向かう。

 そうこうしているうちに、深江の引越しは桑島を巻き込んで何とかその日の夕方…間もなく、日が暮れる段階になって完了することができた。
「ありがとうございました!」
 深々とお辞儀を済ませ、桑島に礼を尽くす深江。そして、さらに続ける。
「あ、晩ご飯とか…一緒にどうですか?」
「…俺?別にいいぜ、いつも1人だからさ。商店街の中にさ、美味い店いっぱい知ってんだ。ついてくか?」
「…はい!」
 あっさりと了承する桑島と深江の2人…善は急げ、といわんばかりに2人はその足で漁野駅前商店街に向かう。桑島についていく深江は、心なら頭の気持ちもあって気分が躍っている。
「宿決まって、ほっとしてるみてぇだな。ま、あんたの場合は明日っから大変だけどさ」
「いえ、全然気にしていません。頑張りますよ!」
 大きな仕事や記事に際し、気合を増して挑む積極的な性格が清水の白羽の矢に止まったのだろう…桑島はそれを言うまいと思って、無言で先導をしていく。
「…お、ここでいい?」
「全然。気になさらずに」
 とある大衆食堂のような雰囲気を出す、老舗のオーラを見せる店が1軒立っていた。自動ではないドアを、片手でガラガラと開けて店内へと入っていく2人。
「おばちゃん、いつもの頼むわ…2人前」
 手でピースサインを交えて、桑島は深江を誘導して席へと座らせる。
「築50年、味もそのまま。役所時代から、ずっと世話になってんだよな…昼飯時なんて、走って来てたんだぜ」
 桑島はかつて、漁野市役所で働いていた過去があり、それ以来の好といったところ。雑談に明け暮れ、お互いに盛り上がっていたところに、ちょうどいい感じに仕上がった定食2人前が、2人のテーブルのところに持ってこられた。
「はい、どうぞ」
 食堂の“おばちゃん”こと、中村初枝…今年を持って齢・77とは思えぬ達者ぶりである。
「…ありがとうございます」
「お姉さん、観光?」
「…いえ、仕事です」
「仕事?…珍しいねぇ。何やってんの?」
「…こういう仕事してます!」
 そういって、名詞をまたもとりだして初枝に渡す深江。
「おい、渡さなくてもいいだろ!」
「いいじゃないですか。これからお世話になるかもしれないのに…」
 すると、ガラガラとドアの音が響いて1人の二枚目な男がボストンバッグを片手に担いで現れてきた。
「いらっしゃい」
「ここでいいですか?」
 男は、ボストンバッグを傍らに下ろして席につく。
「これと…あと、これもお願いします」
「かしこまりました」
 初枝は淡々とメニューをとって、厨房へと向かう。
「…気にすんな。折角の飯が冷めちまうぞ」
「あ、そうですね。いただきます」
 男に構うことなく、桑島と深江は定食を口にしだす。男の分は、定食ではないために早くも用意ができ上がっていた。
「はい、どうぞ」
「…あんた、それだけじゃ足りねぇぞ。夏と違って、夜は長いんだからよ」
 めいっぱいほおばりながら、桑島は男に話を振ってくる。
「僕の場合、これで十分なんですよ」
「やけに他人行儀じゃねぇの?…改まる必要なんてナッシング!」
 親指を力強く立てて、男に精一杯話を振ろうとしている。
「…政治家は行動も言葉も慎まなければ、足もとをすくわれますよ」
「なに?」
 なぜ、政治家だとわかったのか?…男の素性を無性に探りたくなったのか、桑島がほおばりながら立ち上がって男の近くに寄ってくる。いったい、何者だというのか?
「…申し遅れました。名刺交換でもどうですか?」
 いきなり名刺交換だと?…何を考えているのか、ともかく名刺を交互に交換する。男の名刺を見た瞬間、桑島は一瞬だけ体を硬直させた。
「…桑島さん?」
 深江が不思議に思い、桑島の側に寄る。思わず、そこで桑島は正気に戻っていく。
「あ、悪い。これ、あんたも貰いなよ。もう1枚あるだろ?」
「…ええ。どうぞ」
 桑島の問いにすかさず答え、それに応じるかのごとく深江にも名刺を躊躇なく渡す。深江もまた、名詞に凝視している。
「…黎明党?」
「聞いたことないねぇ…」
 初枝も、深江がポロッと言った“黎明党”という言葉に反応する。
「あんた、つくづく政治部の新聞記者として勉強不足だな。ま、そりゃよほどじゃねぇと黎明党[ここ]を知らないのも無理はないんだけどさ…選挙ごとに出るとかとか言って公募者を募っておきながら、選挙に出たことは1度もない。もちろん、夏にあった参院選も同じことを繰り返した」
「…何が言いたいんですか?」
「おい、幹部の1人ならなんか言わねぇとな…釈明とかよ。おう、政調会長の横谷佳彦さん?」
 “横谷”と呼ばれた男は、徐々ににこやかな表情の内心に動揺を見せるかのごとく語気を少し荒げる。
「…だから、意図が読めないんです。一言一句、言いたいことを全て吐き出してもらわないと回答できません」
「答えは簡単だ。単刀直入に言うぜ…あんたらは“チキン”ってことさ。そのチキン野郎の一味が、漁野にいったい何の用だよ?」
 桑島は、国会に議席を持たない全国型政党(厳密には、公職選挙法第86条の規定を満たさないので“政治団体”が正式な表現ではあるが)を“底辺政党”と名付けて、彼らの政策や構造・党内体質などを人脈をフルに活躍して常に情報収集をしている。黎明党もその1つで、他のどのような政党にもない政策を掲げているが、その政策があまりにも苛烈で売国的なものだと映った桑島は、明確に敵意をインターネット上で表明している。
 選挙にいつまで経っても出ないで、公募者に手を汚させて幹部は手を汚さずに隠れとおす“チキン野郎”と呼ばわれても、周囲では何ら不思議はない。桑島はここに絶対的な自信を持っている。
「何も見ないで、組織を“チキン”とは笑止千万…そういう貴方こそ、僕には“チキン”ですよ」
「売り言葉に買い言葉、ってのはテメェのためにあるみてぇだな。本性を馬脚しやがったか…リアルでもよ」
 思わず食って掛かりそうな桑島だったが、察したのか横谷はすっくと立ち上がり、代金を持って初枝に直接渡して、そのままボストンバッグを担いで帰ろうとする。
「…断っておくが、出直しとなる今回の漁野市長選に黎明党は公認候補を立てて参戦することが決まりました」
「信じられねぇな。またそう言って、出ねぇ気じゃねぇだろうな?…ま、あんたらみてぇなのが出ても出なくても結果は一緒だ。あんたらの当選確率なんて、限りなく0だ…俺のここにたっぷりと貯まってあるデータじゃ、どうひっくり返っても逆転ホームランはないぜ」
 帰り様の横谷に、目一杯の皮肉を返す桑島…いや、皮肉というより怒りもかなり混じっている。桑島は、人差し指で頭を指しながら言った。
「興奮しないほうが身のためですね。また議場で会いましょう…」
 手を挙げて、横谷は食堂を出た。実は、問答の前に完食していた…空になった皿や椀が目立つ。桑島はじっとその横谷の後姿に見入るほかなかった。

 市制施行後50年以上の歴史の中で、初めてのこととなる"出直し"漁野市長選は間もなく告示される運びとなった。
 有言実行とでも言うのか、市議会議員の大物らの斡旋もあってか前市政の後継を謳う者あり、そして野党として一貫して前市政の路線と戦いつづけてきた共産党系の候補者もあり、今はこの2人だけなのだが、桑島はまだ引っ掛かっていた。
(あの目つき、あれ見ちまうとな…本気[マジ]で出る気か?…勝ち目0だぞ、出てくるはずがねぇよ)
 新市政は、果たして誰の手によって担われるのか?…前代未聞の醜悪な選挙戦が、これから始まる漁野市政の混乱の序章にすぎないことを桑島をはじめとして、誰しもが全く気づく様子はなかった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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