夏の夜空を見上げた 遠くで響く救急車の音 鼻をくすぐる線香の煙 私は集まりつつある人だかりの中 男の子と目があった
「こんにちは」
男の子が言う
「こんにちは」
私も言う 真っ黒に染まった人だかりが崇拝するかのように頭を下げている 中央にある位牌に刻まれた長ったらしい名前が2つ そう 死んだのだ。 この子と私は、
「名前は?」
腰を軽く曲げて話しかけると真っ直ぐに目をのぞき込んできて言う
「わかんないや。お姉さんは?」 「・・・わかんなくなっちゃったね」 「うん」
ちょっと悲しそうな声とは裏腹に少年の顔は夜空を仰いでほほえんでいる
「死ぬと記憶無くなるのかしら」
少年の視線の先をたどりながらちょっと思ったことを言ってみた
「そうなの?わかんないや」 「私もよ」
線香の煙と白い天井を透かして見た夜空は美しかった でもせっかくの雰囲気は、すすり泣く声で汚された気がした
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