戦後処理を指図し終えて、桑名に戻った大海人は、体調が戻っている讃良に、この舎人を会わせ、語らした…… 瀬田の合戦での総崩れの中、落ち延びた大友帝に付き添ったのは、舎人・連麻呂とその配下の家来だけであった。乗っていた馬も、動けなくなり、徒歩で今の京都と大阪の間にある山崎の山すそを逃げていた。 雑木林で一服している大友に、下げたウサギを見せたこの舎人、 「陛下、やっとウサギを仕留めました。火を起こすのでしばらくお待ちください」 「連(うらじ)、煙で敵に知られるのではないか?」 「大丈夫です、煙が出ないコツがあります」 舎人は火を焚こうと木枝同士を摺り合わせてが、なかなか火がつかないのを見て、大友帝、嘆息して、言う、 「もうよい、こそこそ逃げ回るのには、疲れた。わが首をはねて、叔父に差し出せ」 舎人は木を置き、 「陛下、もう少しの辛抱です。少し先に、誰も住まない猟師小屋があります。しばらくは猟師の姿で世を忍び、好機を待たれるのです」 「だが、お前はどうなる。叔父の元に戻れば、その才能が生かされることもある。私に付いていてはどうにもならぬだろう」 「陛下、……」 「ああ、お前が、叔父の間者だったことは気づいていた。だが、わたしにこれほどまで肩入れしてくれるとは思わなかった」 「申し訳ありませぬ」 「謝ることはない。で、首を、はねてくれぬか」 「それは、ご容赦ください」つれの家来らも頭を下げた、
「みな、嫌がるか……」大友帝は、しばらく考え、 「では、あそこの枝振りの良い木で首を吊る。引き下ろしてから首を切るように。……それから、わが首を叔父に見せるとき、叔父上と、讃良の姉上にこう伝えてくれ、『武運つたなく、世を去りますが、我が身のふがいなさが招いた不運ゆえ、叔父上には恨み辛みはいっさい持っておりませぬ。また、帝位を継いだことは無かったことにして、後世には伝えないでください』それから、姉には、『この伊賀は、父への因果応報の罰で、有間の皇子とおなじく、首つりで死にますが、我が妻、十市と子供の葛野には関わりないこと、二人の行く末に情けをおかけください』とな、では行くか」
舎人らは、泣きながら伏せていた。やがて枝のきしむ音が聞こえてくる……
連麻呂の話を聞き終え、 「因果応報なぞ、父に叫ばなかったらよかったのに……」讃良は、嘆いた。
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