熱田神宮の境内の中の大宮司の館で、熱田と伊勢の大宮司が、酒を交わしていた。 双方の氏子の喧嘩が大事になり、神宮同士の話し合いで、和解したのである。 「時に、熱田どの、大海人皇子さまの噂を聞かれたかな」一献しながら伊勢の宮司が言う。 「なんでも、ここ数ヶ月以内に、朝廷に反逆するとか」 「そうなれば、どちらが勝つと思われるかな」 「やはり、朝廷でしょうなあ、反逆の汚名を浴びた大海人皇子に、集まる味方は少ないでしょう」 「実はな、われら伊勢神宮は、大海人さまの味方になるつもりでな、……ここに大海人様からの書状を預かっているが」と言って、手紙を熱田の宮司に渡した。 書状を読み終えて思案する宮司に、伊勢の宮司、 「今の朝廷の、われらに対する処遇をどう思われる。仏の道には惜しげもなく財貨を与え、我らには奉仕どころか、貢ぎを要求までしてきておる。思い切って、大海人さまに賭けぬか」 「だが、……」 「わたしには、大海人さまが、勝つという確信がある、というのはな……」 伊勢神宮での、讃良姫の奇跡を語る。 「まことのことで?」思わず熱田は聞き返した。 「伊勢大神の名にかけて本当だ。あんな不思議は、生まれて初めて見た。讃良姫の夫の大海人さまに天照大御神の意があろう。……アア、なにも、熱田の神職全員が武装して戦場にいくのではないのだ、氏子の尾張一族らを大海人さまに付くよう説得なさればよいだけさ」
「けちな朝廷側より、大海人さまに付く方が、よいかもしれぬか」 「この神宮の将来を考えて、まあ、よく考えなされ」 「将来か……、それにしても、この頃、ここの雰囲気は神厳さがなくなり、空しいような……」 「御神宝、草薙の剣のご威光が、衰えたのかな」 「そんなことは、……気のせいか」
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