勝利が、確定し、修複中の伏見で戦後処理をしている家康の元に、敗将の三成らが連れて来られる。 面会に出かけた家康は、小大名なのに大軍を編成し、互角以上に戦いを挑んだ三成を、褒めた。 そして、近寄り、小声で、 「戦いの前から、古(いにしえ)の壬申の乱の幻想がでましてなあ。貴公はいかがでしたか」 三成は、ぎょっとした顔をする。 「やはり……、そなたと拙者は、前世からの因縁でしたか」 つぶやき、去って行く家康を、三成は、あ然と見続けた。
公家が、戦勝の祝いを述べに来て、征夷大将軍の任官を勧めたが、家康は口を濁し、秀頼に右大臣の位を贈るよう頼んだ。 話が済み、下がろうとした公家が、思い出したように、話す、 「文献によると、この伏見に桓武天皇の御陵があるそうですが」 「ほう、何処に」 「不明でして……。是非とも、天下人のあなた様のお力で、調べていただきたく……」 偉大な帝王の墓すら、時代が経つと忘れ去られる諸行無常を、家康は、感じた。 多くの来訪者の対応を忙しく終えて、夕日が差す頃、家康は庭に出る。秀吉が植えた桐の木を見つめ、 (まだ、忘れ去られず、秀頼は大坂にいる。まだまだ手が抜けられぬか)
控えている小姓の一人が、西北の山の稜線の盛った部分を指し示し、 「先ほどの、朝廷のお使者の話しに出た、桓武天皇のご陵は、近在の者たちの話しから、あそこだと思いますが」 「さようか」家康は、じっと眺めていた。 (それにしても、桓武天皇は何故、奈良から逃れるように、長岡、京の都へと遷都していったのであろうか。……、そういえば、天智天皇も飛鳥から、大津へ遷都したが、……判らぬ……。それにしても、あの前世の姉・持統天皇、懐かしいというより、どこか惹かれる魅力を感じたが、……ああそうか、大友の皇子は、姉に惚れていたな、ははは) 家康の笑い声に、小姓が、 「上様、どうかなされましたか」 「ああ、思いだし笑いだ、遠い昔のな」 (ご陵の向こうが、京の都、千年の都か、……わが江戸も、天下に君臨し、長く太平の世が続いてもらいたいものよ) カラスの鳴く夕暮れの空を、家康は見上げていた。 完
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