http://plaza.rakuten.co.jp/hakurojo/diary/200805110004/
武家屋敷の各所に出入りする、清十郎だが、村上家の用人・左源太には、特に気に入られた。 ある日、用人が、算盤で帳面調べをしている。入った清十郎、頭を抱えた様子の用人に、 「どうか、なされましたか」 「残金との勘定が合わぬ。銀六十匁(約一両)が足らぬのじゃ。どう調べても合わぬ」 「酒や油は蒸発するから、それも勘定に入れるようにと、ご城主さまが諭されたとか、聞いていますが」 「ほ、お前、ご当家に詳しいのう。だが、それはない」 「では、わたしめに、見せてください」 算盤と帳面を渡され、ぱちぱちと勘定をし、即座に清十郎、 「確かに、六十匁分足りません、…九で割り切れるなら、桁違いだが、…ひょっとしたら」 清十郎は、帳面を凝視する。 「ああ、やはり、ここだ。ご用人さま、蚊ですよ」 「カ?」 「ここの、一の字に蚊の死骸が乗って、七に見えるのですよ」 「ホントだ。そう言えば、夏の晩、蚊が飛んできたのを叩いたなあ。……ははは、清十郎ありがとよ」 「やはり『一』の字は、『壱』に書かれた方が、ようございますね……」 帳面を見ながら、清十郎、話を続ける、
「ご用人さま、わたくし考えるのですが、この帳面では、両、分の金貨の出入りが、割とありますが、銀使いになされたら」 「大身の武士は、金使い、普通の武士や町人は、銀使い、庶民は銭使いと決まっているぞ」 「ですが、上方(大阪)から西は銀使いで、それに……」 説明を聞いた、用人、 「清十郎、お前、当家に勤めぬか。いや、勘定方の手代に、わが殿に推挙してもらおう。その才なら、武家になれるぞ」 「いえ、身分不相応な欲は、持っておりませぬ」
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