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小者に、両刀も渡し、傘を返しに行くようにと、頼み、 「お夏、家へ送ってあげよう。おぶってあげるから、わしの背に乗れ。遠慮するな」 不思議とすなおに、お夏は、身を弥右衛門に任せた。
やはり長い間の心労であろうか、思ったより、お夏は軽かった。 弥右衛門は、三河地方の子守歌を歌いながら、歩く。 備前門まで来ると、弥右衛門はお夏を負ぶったまま、番所の床几に座った。 世話をする門番から、水をもらい、人心地してから、立つと、 「お夏坊の草履が……」門番は差し出す、 「ああ、お夏は裸足だったのか、草履はわしの懐に入れよ」 「お服が汚れますが」 「かまわんさ、洗えば綺麗になる……だが、この子の心は、……」 弥右衛門は、ため息をついた。 町筋に、男も女も、人々が出て、二人が通るのを見ている。みんな嗚咽していた。 「お夏や、みな、お前たちのことで泣いておるのう。やさしい人たちじゃ。……お前の父のことじゃが、恨むでない。元々は、我ら武家の不祥事から始まった不運じゃ」 いきさつを話し、 「九左衛門は理不尽な要求に、悩んだが、従うをえなかった。われら武家側に原因があった、すまぬ」 お夏が、聞いているのか、いないのか、弥右衛門には分からなかった。
「お前に、清十郎のむくろでも見せれば、良かったかもしれぬ。清十郎の願いで、あわてて除けてしまったが、……ん?声が」弥右衛門は立ち止まり、目をつぶった。
やがて泣き出した、 「お夏、お夏、娘が!娘が!出てきた、昔の幼いままで、……『ち・ち・う・え、それでいいのよ、清十郎さんはお夏さんの心の中で、きれいなまま、生きていくわ、それでいいのよ』と、娘は生きていたのだ! 気が付かなかった、娘は、わしの心の中で、生きていた!」 嗚咽が続く。収まると、 「ご隠居さま、わたしの袖で涙を拭いて」 「うん、ありがとよ」 見れば、夕暮れが迫るなか、但馬屋の前では、使用人たちに担がれた、九左衛門が、心配そうに見つめていた。 お夏は、小さな声で「おとっあん」とつぶやいた。 終 参考にした文献類 橋本政治著・姫路城史(中巻) 姫路市教育委員会編・姫路城物語 神戸新聞編・姫路城遊歩ガイド 刊行社販売・城南小学校区住宅地図 他若干
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