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ところが、翌日になると、清十郎は、お夏を避け始めた。 で近寄り、問いつめると、 「旦那様から、ご注意を受けましたので……、どうか、お嬢様、わたしに話しかけるのをお止めください」うなだれた。 昨日、二人を見た者が、告げ口をしたのであろう。 それから、二人は親しく近づかなかったが、お夏と清十郎は、互いに意識しだす。 それでも、清十郎は、今まで以上に忙しく働き、九左衛門は、目を掛けていた。 ある日の夕食時、清十郎は、ご家中の妻女から、お夏がお花を習うことを、主人に勧めた。そして、他の店の娘も習うように、親たちに働きかけることも頼んだ。 で、九左衛門の働きかけで、五人の娘の家を回り持ちの教室にして、その妻女が教える手はずになる。 初めに、お夏は、城の北の、その妻女の屋敷へ、脩束(授業料)を持って、挨拶に行く。 めずらしく、清十郎だけが、お供になった。
途中の北勢隠門の中で、通行の鑑札(許可証)を、紙入れに仕舞う清十郎に、 「ここの門の手前の塀、行ったり来たりで面倒ねえ」 「お城の守りのための迷路ですから、我慢してください。お屋敷はすぐそこです」
「清十郎、あのオミクジまだ持っているの」 「申し訳ありません」清十郎は振り返り、謝る。 「何故、そんな物を?」 「何故と言われても……、お嬢様のお手が触れたものが、愛おしくて」 「それじゃあ、振り袖火事の、『おきく』さんと変わらないのじゃないの。綺麗でないわたしなんかを……」 「いえお嬢様、お嬢さまは、輝いています。そのお顔を見るだけで、この清十郎、生きていて良かった、と思います。同じお店に住める幸運にも、感謝しています。お嬢様がお婿さまを迎えられ、わたしがお店を出てからも、オミクジをお嬢だと思い、大事に持ち続けます」
「清十郎、オミクジをお渡し!」立ち止まり、困惑する清十郎に、 「お出し!」 清十郎がしぶしぶ出した、オミクジをお夏は破り捨て、横の堀に流した。 「わたしは、こんな紙切れと同じじゃない。清十郎、わたしとオミクジ、どちらが大事なの!」 「お嬢さま……」清十郎は、泣き声のお夏に、茫然とした。
大店の娘と、見習いの手代では、どうすることもできない身分の差があるのを、二人は恨めしく思うしかなかった。
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