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平安遥か(W)千年の都へ 作者:ゲン ヒデ

第8回   8
                  神託
 神護景雲3年(768)5月、不破内親王と志計志麻呂の親子は、帝を呪詛したとの、ざん訴にあい、流刑になった。内親王は名を厨真人厨女に替えさせられた。
 これには、白壁王も庇いきれず、生活に困らぬ待遇を、とだけ、称徳帝に懇願した。

 その騒ぎの済んだ頃、例の神託を、大宰主神、阿曽麻呂が都に持ち帰った。
 道鏡も控える御前で、帝の御下問に真備、
「あそこの神託には、前科がありますから、胡散臭いですなあ。真偽を、誰かに確認に行かせなければ…。皆が納得する、清廉潔白な者でないと。お上に夢のお告げがあればいいのですが。」と、控えている法均尼を思わせぶりに見る。
 翌日、大神が夢に現れ、法均尼を使いに、とお告げがあった、と女帝話す。     
 当然、道鏡の意である。
 法均尼は病気ぎみで、そんな大任は出来ないと断る。
 で、女帝
「大神のお告げを、重んじたいが…、法均尼の身内、弟の清麻呂を代わりに行かせるのはどうか」

 まもなく女帝は、和気清麻呂に、宇佐八幡宮の神託を受けよ、と命じる。

                真備の秘術
 慌ただしく山部王、真備邸を訪れる。
『道鏡を皇位に就けよ、さすれば天下は太平となろう』との神託に心配して、真備に具申しよう、と思い立ったのである。
 落ち着き払った真備、
「ああ、心配しなくていいよ、」と言って世間話をしていると、また来客が来る。
 真備の娘、由利に案内され、和気清麻呂が入ってくる。
「お父様、和気様が、是非ともお父様に相談したいことがあるので、会わして貰いたいと仰るの」
「ああ、分かっている。神託を受ける事だろ」
 困り果てた風情の36歳の男は、うなずく。

「清麻呂よ、曇り1点なき心で、遠い皇祖の八幡大神の真意を、感じるだけのことだ」
「ですが、法王様らが寄ってたかって…」
「うーん。…ところで、清麻呂、道鏡と比べて、わしの事、どう思う」
「信頼しております」
「そうか、信頼してくれているか。じゃあ、やってみるか」
 
 横にいる山部に
「1文貸してくれぬか」
 由利に
「懐の万一のための裁縫の糸を貸してくれ。針は要らぬ」

 不審そうな二人からそれらを貰い、糸を銭の穴に通し、結ぶ。
 振り子のように銭を揺らす。
「うん、これで良いだろう。じゃあ清麻呂よ、この銭をよーく見てくれ」
 ゆっくり銭を振らす。
 「どうだな、わしが1、2、3と数えると、目が自然に閉じ、わしの声しか聞こえなくなるぞ。1、2、3!」
 そう、真備は、催眠術を掛けたのである。
 驚きながら、山部と由利は見守る。

 「…案内された宇佐八幡宮の拝殿の中では、……巫女や禰宜を退けたくなる、退けたくなる…。自ら神託を待つと、高さ3丈、満月ように輝く八幡大神が現れる、現れる、現れる…。神託は、お前が思っているのと同じ事を仰せになる、お前が思っているのと同じ事を仰せになる、お前が思っているのと同じ事を仰せになる、…」
 終わりに
「1、2、3と唱えると、わしが言った事を忘れるが、宇佐八幡宮の拝殿の中では、言った事が現れるのじゃ、目が覚めた後、気持ちがスッキリするぞ。唱えるぞ、1、2、3!」
 催眠術から醒めて、清麻呂は晴れ晴れした表情で退出した。 

 驚いた山部
「あれは何ですか」
「ああ、留学仲間、玄ボウから教わった暗示術じゃよ。悪用されると危険だから、誰にも見せたことがない。…ははん、陛下にも施して、道鏡の術を解いたら、と思っただろう。…じゃが、あれには効かぬ。歯が立たなかった。心の奥底に、暗示を受け付けない、壁みたいな物がある。呪術には勝てぬらしい」
 残念がる山部。

真備ふと思いつく。銭を振って
「どうかな、お二人、これを見つめて、結婚したくなるように暗示術を掛けようか」
「いやですわ、お父様、妾はもう35歳、歳を取っていますわ。山部様、年上の妾、いやでしょう」
思わせぶりに微笑まれ、山部王うろたえる。内心、願望があったのである。
「いや、その…」煮え切らない。

 二人を見ていた、真備残念そうな顔をして、
「駄賃で貰うか」
 1文銭を懐に仕舞い、にやっとする。
   

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Novel Editor by BS CGI Rental
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