徳政論争 内裏から大内裏(官庁街地域)への西門・陰明門を桓武帝一行が通ろうとしたとき、 菅野真道と藤原緒嗣が後を追ってきた。 是非とも散歩に同行したいと頼み込む。 「2人ともよく随臣を努めてたなあ、懐かしい事よ。まあ、付いて参れ」 7人の集団が、つもった雪を踏みしめ、宣秋門を出ると、広い雪景色の空間が広がる。 向こう周囲の官庁の建物群も雪化粧をしている。 北の松林の手前の東屋に帝座る。黒貂の毛皮を着込み、同じく黒貂の丸帽を被っている。
「真道、緒嗣、参議のお前達に聞きたいが、わしは日頃、仁政を心がけているが、どうも思わしくない。どうすればいいのかのう」 まっていたとばかり、若い緒嗣答える。 「陛下、今天下の民、百姓の困窮にあえいでいる原因は、蝦夷遠征とこの平安京の建設です。思いきって、その両方を中止すべきです。そうしなければ、彼らは救われません」 あわてて、中年の真道反論する 「緒嗣殿、蝦夷平定と平安京の完成は陛下の悲願ですぞ。まだまだ、国には余力がある…」 「真道、もうよい」帝は制した。 じっと考え込み、帝、口を開いた。2人は固唾を呑みじっとしている。 「その2つの事業、中止する。このこと皆に伝えよ」 「ありがとうございます。これで、民、百姓は救われます」緒嗣は礼をし、雪の上を駆けていった。 ほっとした顔で立っている真道に 「わしに決断させようと、お前達、示し合わせていたのだろう」 「分かりましたか」 「雪景色の中では、建設途中で放棄された建物でも、綺麗に見えるからのう」 「はは、感づいて居られましたか」
他の随臣らに座を外さして、真道は帝に聞いた。 「陛下、私、日頃不思議に思っていることがあります」 「何だね」 「遷都の理由です。井上皇后、他戸東宮、早良東宮の祟りが怖いので遷都したと、日頃、陛下は公言なされますが、おかしいのです」 「どこが、おかしいのだ」 「前に宮中で、異変がありましたなあ」 「異変なぞないぞ」 「史書の先帝(光仁帝)の巻を提出した日です。田村麻呂らが遊戯をしていた時、厠へ急ぐと先客の陛下、泣いておられましたなあ」 「お前、聞いていたのか!」 「あの時、陛下は、早良よ許せ、許してくれい、の後、あの都の住人を脱出させねば、大変なことになるのを分かってくれ、でしたが。それに五百井様に聞いたら、あの童謡の元のは早良様がお作りに成られたとか」 「やはりなあ。父の出世を願う歌だったかもしれぬか…。よし、すべてをお前に明かそう。だが、この秘密、お前の心の中に閉まって置け。口外も記録してもならぬ」 と言って、吉備真備から聞かされた水銀毒汚染の話を、明かした。 驚く真道に、続けて 「お前が供をした、その帰り道に、腰が痛くなって、お社に寝かされたが…」
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