狐の使い 9日後のことである。朝の朝堂院に高官等が、集まる。 現代の学校の朝礼式のような儀式か。 山部東宮、太宰師に頼み事があったので、早めに朝堂院へ出かける。 玄ボウに師事した神職の行方を、調べてもらおうと思ったのである。 師(そつ)は百川らの弟、蔵下麻呂である。 早すぎて、まだ誰も来ていない。 参議らの座所、含章殿に行くと、座に毛皮が置いてある。 座の主、藤原魚名の忘れ物か、と近寄ると、生きた狐が寝そべっていた。 顔を上げ、じっと東宮を見つめる。 「山部よ」と東宮の心に話しかけた。すぐ誰だか分かる。あの婆さんである。 近従らが騒ぐのを制して、狐に近寄り、 「何でしょうか、ご先祖さま」親しげに体をかがめる。 「うっかりと、お前の未来の手がかりを教えてしまった。あれほど言った禁を、妾、自身が破ってしまった。ああ、まずいことをした…。いま、お前に忠告をする。あれにこだわってはならぬ。あれは歴史の選択の1つの結果じゃ。お前の未来は、白紙の紙と同じじゃぞ。未来は、自分自身で信じた道だけを描いていけ。よいな」 すくっと起きた狐、悠々と出ていた。
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