■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

平安遥か(W)千年の都へ 作者:ゲン ヒデ

第10回   10
               淳仁帝の呪い
  淳仁帝が閉じこめられていた東院の塗籠では、真備と智麻呂が隠し戸を上げている。
 小さな篝火を持ち、智麻呂が抜け穴へと降りて行く。

 15分後、戻ってくる。足は濡れている。
「こんな物が、奥の突き当たりに落ちていました。これで穴を掘ったのでしょう。水が穴から染み出していましたが」錆びた金銅の椀と箸を差し出す。
 しげしげと椀を見ていた真備、足を拭いている智麻呂に
「所々銀色になっている。これは水銀だ」
「金銅に触れて、水銀毒が水銀に戻ったのでしょう。何処から来たのか…」
「左京の北の2陵の環濠と西池ではないか」
「水銀蒸気が空に上がり、佐保山の西の麓に雨と共に降り、そこらのため池に集まったと…」
「底に積もった水銀が、水脈を伝わるうちに毒に変化し、流れてきて、この掘った穴から漏れ出たということだろう」
「で、すぐ近くの若水の井戸へ流れ込んだと」
「それなら辻褄が合う。…淡路帝の復讐になるか」真備、ため息をつく。
  
 翌日から智麻呂の指図で、人夫達が東院に出入りして,何やら工事を行っていた。
人夫らは伊賀訛りであった。
 城攻めの策、水源絶ちの技術を知っている彼らを、真備は採用した。


                 藤原永手邸にて
 左大臣、藤原永手が、ひそかに、天武天皇の子孫たちを自邸へ招いた。
 誰もが、自分が皇嗣になれると思い、訪れるが、ライバル達も集まっている。

 やがて、永手、百川、浜成、巨勢麿の藤原4家の代表が現れ、鎌足の遺文を広げ読む。
 鎌足が、斉明帝から打ち明けられた大海皇子の出生の秘密と、毒殺される経過が書かれ、皇子を恨みはしないが、天智帝の皇統を守れ、で締めくくられていた。

 聞き終わり、皇族の長老格の文室浄三が言う。
「あなた方、藤原家にも天武帝の秘密が伝わっていたのですか。では、我らにどうせよ、といわれるのか」
 永手、じっと皇族を見回し、
「我らの親たちは、苦渋の思いで、天武系の王家を支えましたが、どこの馬の骨とも分からぬ悪僧に皇位を継がせよう、という帝が出る始末では、本当の王家に、皇位を代えたく思います。なお皆様方は、今まで通りの処遇を保証いたします」
「我らに、皇位を辞退せよとのことか。やむを得ぬか」
 浄三らは、ため息をつく。
 天下に公表されたら、道をも歩けぬ秘密を握られているのである。

 王族達は、とぼとぼと、帰っていった。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections