セピア色の世界の中に俺は、居た。 目の前に広がるのは「見慣れていた」景色。 夢の中? それとも、俺の記憶の中だろうか? ………いや、違う。 俺の目の前に「俺」が居た。まだ小さい。 「父さん! 母さん! あいつ等がやってくる!」 子供の俺は窓の外を見ながら、悲鳴に近い声をあげていた。 そして、子供の俺に2つの大きい影が近寄る。 俺は必死にその影追って、2人の顔を見た。 …………………懐かしい。父さん、母さんだ。 「本当。早く逃げないと」 母さんが部屋の奥へ消えていった。きっと、俺の兄妹を探しに行ったのだろう。 「駄目だ。相手は早すぎる」 窓の外を見ながら父は呟いた。 そして、子供の俺の方に顔を向けて、言った。 「アラン。兄さん、妹を連れて今すぐ逃げろ」 「でも、父さんは? 母さんは? 此処に居たら危ないよ」 母さんが部屋に兄と妹を連れて戻ってきた。 「大丈夫よ。アラン。私達は彼らを止めたら、すぐ行くから」 「でも…っっ」 「早く行けっっ!!」 半ば強引に、家を追い出された。 兄さんが俺と、妹の手を引っ張って、家の裏にある森へ連れて行く。 俺の中に蘇る、あの時の感覚。 苦しくて、哀しくて、だけどどうしようもなかった。 母さんは「すぐ行く」と言っていた。 だけど、俺には…多分、兄妹にも分かっていたんだ。 2度と父さん、母さんには会えないだろうって事を。 「父さん! 母さん!」 子供の俺は必死になって、家の方を振り返っている。 その姿を見ている俺は、胸が張り裂けそうな思いだった。 今でも、この日の事は鮮明にオボエテイル―――…。
『――違う。もっと前――』
セピア色の世界の中で、急に知らない女の声が割り込んだ。 そして一瞬その中の時が止まり、セピア色の世界が渦に包まれる。 そうまるで…………ビデオを巻き戻したり、早送りするように。
『――此処――』
その声と共に、また、セピア色の世界が戻ってきた―――……。
バチンッッ
頬に強い衝撃を受けて、俺は現実に引き戻される。 恐る恐る目を開けると、そこには泣きそうな顔をしたスミレが待っていた。
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