「まるで…過去、そのまま時間が止まっていたような?」
そっと呟くように言いながら、スミレが俺に不安そうな目を向ける。 「「過去」で時間が止まってるって言うのか? どーして…」 「それは分からない。だけど…それなら、必要以上に私達を追いかけてくる理由が…」
ガシャーンッッ
俺達以外いないこの部屋で。ビンが割れる音がした。 「アラン! 絶対に私の手を離しちゃ駄目だよ!」 深い深い闇の奥を見てきた彼女の頭には、どんな答えが出ているのだろうか。 どうして、俺の手を握ったまま離そうとしないのか。 再び、俺の手を引いて彼女は走り出す。 守られなければいけないのは、俺の方じゃないのに。 「どーしてだよ! 何時もは俺を拒絶するのに。どーして…」 「どんな今があっても、必ず過去は存在する! 私の過去は闇に染まってた! 今更、私に憑こうなんて奴、気が知れない!」 「じゃあ…」 吹き抜けになった、恐ろしく美しい広間の中で、俺は彼女を引き止めた。
「あいつの目的は…俺?」
彼女は否定しようとしない。 「……………………俺に何の価値がある?」 嫌な予感がする。スミレは俺と目を合わそうとしない。 だけど、どうしても聞きたかった。 俺の奥にある、あいつが求めるべきものが何なのかを。 空いたもう片方の手で、彼女の方に手を伸ばす。 「スミレ…お願いだ。教えてくれ。どうしてもって言うなら…」 「分かったよ。アラン。全部話すから。そうやって脅そうなんてことしないで」 諦めたような表情で、彼女は話し出す。俺は手を引っ込めた。 「多分…だけど、あいつ等の目的は、アラン、あんたの過去にある。どんなに今は幸せでも、アランには消えない、消せない過去がある。どれ程足掻いたってそれは光に変える事は出来ない。そうでしょう?」 目的は俺の過去? 「なんで…俺の過去を求めてるんだ…?」 「分からない。だけど…この家は「過去」に執着している。目的物がないのに、あの霊が襲ってくるのは考えられないし…。考えられるのはそれしか…」 確かに俺には消せない過去の闇がある。 だけど……俺は頑張ってきた。どんなに辛くとも、過去に縛られずに生きようと。 そして此処まで乗り越えてきたんだ。 「スミレ…俺…」 何と言えば良いのか分からなかった。 支えるべき家族がいるのに。守らなければいけない家族がいるのに。 なのに…。
「アランっっっ!!」
スミレの悲鳴のような声が聞こえた。 その瞬間。 俺の体は激痛に包まれた。
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